ジャライル

ジャライル

ジャライル（Jalairs、モンゴル語: Жалайр）は、かつてモンゴル高原をはじめとする中央ユーラシアに広く分布していた遊牧民族です。古くからモンゴル帝国に仕え、その一部は14世紀に西アジアでジャライル朝を建設しました。

概要

ジャライルは、元々はウイグル帝国に隷属し、カラコルム近郊に居住していました。ウイグル帝国の崩壊後、オノン河畔へと移動しました。10世紀から11世紀にかけては、契丹族の遼や女真族の金朝と対立し、その攻撃を受けて北へ退却を余儀なくされました。

この退却の際、ジャライルはモンゴル部族のメネン・トドンの牧地を侵略し、彼の妻モヌルンとその7人の子供たちを殺害しました。この事件はモンゴル部族の怒りを買い、後にジャライルはモンゴル部族に征服されることになります。以降、ジャライル部族全体がモンゴル部族の「譜代の隷臣（オテグウ・ボゴル）」となり、チンギス・カン時代にはウリャンカイ部族などと並び、モンゴル・ウルスに隷属する主要な部族の一つとなりました。

「ジャライル」という名称は、古代ウイグルの可汗を輩出した薬羅葛（ヤグラカル）氏のモンゴル語風の発音に由来すると考えられています。

歴史

契丹人による虐殺

モンゴル人の中には、ジャライルという名のドルルキン（枝族）出身の人々がいました。彼らは70翼（クリエン：1クリエン＝1千家族）を擁し、その一部はケルレン地方に住んでいました。ケルレン地方はヒタイ（契丹）人の地に近かったため、ヒタイ人の軍勢がジャライルの地に侵入を試みましたが、ケルレン川が立ちはだかり、容易に渡ることができませんでした。これを見たジャライルの人々は、ヒタイ人が渡れないのを良いことに、彼らをからかい、嘲りました。怒ったヒタイ人は、その夜のうちに筏を作り、川を渡ってジャライル部族の女子供に至るまで皆殺しにし、財産を奪い去りました。

メネン・トドンの妻子殺害

ジャライル部族のある一団は、他の人々から離れて、敵軍が来ないような僻地に住んでいました。そのうちの70家族は住み慣れた土地を離れて逃亡し、モンゴル部族の故メネン・トドンの妻モヌルンの領土に侵入しました。飢えに苦しんだジャライルの人々は、モヌルンの牧地を掘り返し、草の根を食べ始めました。たまたまそこではモヌルンの息子たちが乗馬の練習をしていましたが、モヌルンは自分たちの土地が荒らされるのを嫌がり、馬車に乗ってジャライルの人々を負傷させました。これに対し、ジャライルの人々は馬群を駆り立てて復讐し、モヌルンの息子たちとモヌルンを斬り殺しました。この時、モンゴル部族で生き残ったのは、薪置き場に隠されていた孫のカイドゥと、婿養子に行っていた第七子のナチン・バアトルのみでした。

後に、留まっていたジャライル部族の一団は、自分たちの所から逃亡した70家族がモンゴル部族に大変なことをしでかしたことを詫び、その70家族の家長を皆殺しにして、残った家族をカイドゥ家の家人・捕虜としました。それ以来、この一族はモンゴル部族の譜代家人（オテグ・ボコル）となり、代々モンゴルに仕えることとなりました。

構成氏族

ラシードゥッディーンの『集史』によると、ジャライル部族は10個の氏族に分かれ、各氏族にはそれぞれ首領がいました。彼らはオノン川に幕営しており、その数は70クリエン（クリエンは千戸の天幕集団を意味する）にも及んだと言われています。

ジャライル出身のモンゴル御家人

ジャライル部族からは、モンゴル帝国の御家人として多くの人物が輩出されました。以下はその一部です。

ジャアト・ジャライル部ムカリ国王家
ムカリ・クーヤンク
チラウン・カイチ
トゲ
ブギデイ
カシ
チョア
ノカイ
大断事官モンケセル
万人隊長トゴン
ドルジ
メンリ・テムル
エセン・テムル
ハルガスン
テムル・ブカ
中書右丞相パーディシャー
ヒンドゥクル
ジェブケ
トランギト・ジャライル部コゴチャ家
コゴチャ
ジョチ・チャウルカン
テムデイ
アウルクチ
バイジュ
トゴン・ブカ
ジョチ・ダルマラ
クトクト
クトクダル
クンドゥカイ
イルゲイ
アルカン
ジャライル部イルゲイ家
カダアン
イルゲイ・ノヤン
イルチダイ
ダーニシュマンド
ドロアダイ・バウルチ
ウヤト・ジャライル部オゲレイ家
オゲレイ・コルチ
トクラウン・ジャライル部タイジ家
タイジ
ジャライル部ブルケ家
ブルケ
ジャライル部セチェ・ドモク家
セチェ・ドモク
アルカイ・カサル
バラ・チェルビ
マクイ
ジャライル部ジャライルタイ・イェスル家
ジャライルタイ・イェスル
ジャライル部ウカイ家
ウカイ・カルジャとカラジュ兄弟
ジャライル部ドクル家
ドクル・コルチ
ジャライル部ムゲ家
ムゲ・ノヤン
イェスル

脚注

参考資料

ドーソン（訳注：佐口透）『モンゴル帝国史1』（1989年、平凡社、ISBN 4582801102）
村上正二訳注『モンゴル秘史１チンギス・カン物語』（1970年、平凡社、ISBN 4582801633）
志茂碩敏『モンゴル帝国史研究 正篇』（東京大学出版会、2013年）

関連項目

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