デゲイ

デゲイ

デゲイ（モンゴル語: Degei, 中国語: 迭哥）は、13世紀初頭にチンギス・カンに仕えたベスト（ベスート）氏出身の千人隊長です。彼は元々、ボルジギン氏の支族であるタイチウト氏に従属する隷属民の一人に過ぎませんでしたが、チンギス・カンに仕えることでその才能を開花させ、最終的にはオゴデイ・ウルスの王傅という重職にまで上り詰めました。

生涯

隷属民からチンギス・カンへの仕官

デゲイの属するベスト氏は、モンゴル部の中でも比較的小規模な氏族であり、12世紀末には有力なタイチウト氏の支配下にありました。デゲイの一族もまた、テムジン（後のチンギス・カン）が登場するまでは、タイチウト氏に仕える身分だったと伝えられています。

『集史』によると、ある時デゲイの父がタイチウト氏の者に殺害されるという事件が起こりました。デゲイの母バイダル・ハトゥンは、息子たちの将来を深く案じ、当時タイチウト氏と対立関係にあったキヤト・ボルジギン氏の長、チンギス・カンの元へ身を寄せることを決意します。チンギス・カンは「寡婦や孤児の面倒をよくみる」という評判を得ていたからです。

バイダル・ハトゥンが二人の息子、デゲイとクチュグルを連れてチンギス・カンの下を訪れると、チンギス・カンは彼女たちを手厚く迎えました。そしてバイダル・ハトゥンをダルハン（特権階級）とした上で、「孤児たちの［将来の］道はダルハンとなるべきものなのだ」と述べ、彼らの将来を約束したとされています。この頃、デゲイはアクタチ（乗馬係）またはコニチ（羊飼い）の職務を与えられたと記録されています。

千人隊長への昇進

1206年、モンゴル高原を統一したチンギス・カンは、千人隊制度を創設しました。デゲイとクチュグル兄弟は、それぞれ千人隊長に任命され、その能力を高く評価されました。チンギス・カンはデゲイに対し、「隠れたる［民草］を纏めさせて、千人隊を統べさせ給うた」と述べ、分散していたベスト氏の民を集めて千人隊を創設することを許しました。これは、デゲイに対する絶大な信頼の証と言えるでしょう。

オゴデイ・ウルスの王傅として

その後、デゲイ率いるベスト氏千人隊はチンギス・カンの第三子オゴデイに与えられ、デゲイはオゴデイの王傅（教育係、補佐役）という重要な地位を与えられました。これ以後、デゲイの一族は代々オゴデイ家に仕え、その勢力を拡大していきます。東方の華北においては、グユクの投下領たる大名路の清豊県にデゲイ一族の投下領が設定され、その繁栄を支えました。

ベスト氏バイダル・ハトゥン家

バイダル・ハトゥン（Baydar Qatun）…デゲイ、クチュクルの母
デゲイ・ノヤン（Degei Noyan）…バイダル・ハトゥンの息子で、オゴデイ・ウルス王傅の一人。
ウドイ（Udui）…オゴデイ家のジビク・テムルに仕え、万人隊長となった。
クチュグル（Küčügür）…デゲイ・ノヤンの弟で、チンギス・カンの千人隊長の一人。
ブルトジン・コルチ（Burtǰin Qorči）…クチュグルの息子で、チンギス・カンの末子トゥルイに仕えた。
クビライ・コルチ（Qubilai Qorči）…クチュグルの息子で、千人隊長となった。
チャアル・ブカ（Čar Buqa）…クビライ・コルチの息子で、トゥルイの第二子、クビライ・カーンに仕えた。
キウチ（Kiüči）…チャアル・ブカの息子で、アリク・ブケ家のメリク・テムルの息子ミンガンに仕え、後にフラグ・ウルスに派遣された。

初期オゴデイ・ウルスの4千人隊

ジャライル部のイルゲイ・ノヤン
ベスト部のデゲイ
スルドス部のイレク・トエ
コンゴタン部のダイル

デゲイは、隷属民という低い身分から身を起こし、チンギス・カン、そしてオゴデイに仕え、モンゴル帝国の発展に大きく貢献しました。彼の生涯は、能力と忠誠心があれば、身分に関わらず成功できるというモンゴル帝国の実力主義を象徴する人物の一人と言えるでしょう。

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