イレブンジズ

イレブンジズ：世界に広がる午前11時頃の軽食習慣

イレブンジズ (Elevenses) とは、午前11時頃に行われる軽食習慣です。イギリス発祥とされ、お茶やコーヒーにビスケットなどを添えて楽しむのが一般的ですが、国や地域によってその名称、形態、そして時間帯は大きく異なります。本稿では、世界各地のイレブンジズに類似した習慣を、その文化的な背景とともに詳しく見ていきます。

イギリス：伝統的なティータイム

イレブンジズ発祥の地、イギリスでは、その名の通り午前11時頃に、お茶やコーヒーとビスケット、あるいはサンドイッチなどの軽食を摂る習慣です。ティーバッグを使った紅茶をマグカップで飲むことが多く、ビスケットを紅茶に浸して食べる「ダンキング」も人気です。この習慣は、1800年代に紅茶が庶民に普及した頃から広まったと考えられており、産業革命と労働者階級の生活様式変化と深く結びついています。語源を辿ると、1823年に「elevener」という単語が登場し、その後「elevens」を経て、1887年に「イレブンジズ」が定着したことがわかります。テレグラフ紙の記事では、「伝統的な生活様式の重要な要素」と評され、現代イギリス文化に深く根付いた習慣であることがわかります。

アイルランド：一日中続く紅茶文化

世界でも有数の紅茶消費国であるアイルランドでは、朝食からイレブンジズ、アフタヌーンティー、ハイティーなど、時間帯を問わず一日中紅茶を飲む習慣があります。ポットにティーバッグで淹れた濃い紅茶にミルクをたっぷり入れ、スコーンやビスケット、サンドイッチなどを添えてマグカップで楽しみます。ティーバッグは家庭でも大容量サイズが販売されており、パブやガソリンスタンドなど、あらゆる場所で手軽に紅茶を楽しむことができます。

フランス：コーヒーブレイクとル・グテ

フランスでは、コーヒーは仕事や日常生活に欠かせない飲み物であり、情報交換の場としての役割も担っています。労働法で定められた休憩時間には、「Pause-café（コーヒーブレイク）」として、職場や近隣でコーヒーを飲みながらリラックスし、仲間と交流する時間を取ります。また、午後4時頃の子供のおやつ時間「ル・グテ (le goûter)」は、夕食までの時間調整と家族団らんのひとときとして大切にされています。ケーキやビスケット、パンなどにミルクやジュースを添えて提供されることが多いです。

ドイツ：ツヴァイテス・フルシュテュックと地域差

ドイツでは、早朝から始まる生活スタイルから、朝食と昼食の間の午前9時～10時頃に軽食をとる習慣があります。「ツヴァイテス・フルシュテュック (2度目の朝食)」や「ツヴィッシェンマルツァイト (おやつ、軽食)」と呼ばれ、地域によって「ヴェスパー」「ブロッタイト」などの呼び名もあります。南ドイツの職場では「マールツァイト (食事の時間に使われる挨拶)」とも呼ばれ、休憩中に食べるサンドイッチやフルーツなどは「パウゼンブロート (休み時間のパン)」と呼ばれています。シュヴァルツヴァルト地方では、ボリュームのある料理が「ツニュニ」として提供されます。一方、東フリースラント地方では、独自の紅茶「オストフリーゼンテー」と独特の飲み方が無形文化遺産に登録されているなど、地域差も顕著です。午前11時頃のお茶の時間は「エルフルイエ」と呼ばれています。

オーストリア：ヤウゼと地域による呼び名の違い

オーストリアでは、朝・昼・夕の食事間の軽食やおやつを「ヤウゼ (Jause)」と呼びます。甘くないものが一般的ですが、午後はケーキなどの甘いものも提供されます。地域によって呼び名や内容に違いがあり、オーバーエスターライヒ州とニーダーエスターライヒ州西部では夕食と同義語として使用され、コールドミールが供されます。オーストリア東部では「ガベルフルシュテュック」とも呼ばれ、西部では「ノエールン」「マレンデ」「ウンターネッセン」など、地域色豊かな呼び名が使われています。

スイス：ツニュニとツフェーリ

スイスのドイツ語圏では、午前9時頃～昼食までの軽食を「ツニュニ (Znüni)」と呼びます。これは「午前9時」を意味する言葉の短縮形で、学校、企業、家庭で広く行われています。午後4時頃のおやつは「ツフェーリ (Zvieri)」と呼ばれています。生産性向上のため、企業によっては従業員にツニュニ休憩を推奨するところもあります。

その他ヨーロッパ諸国

ベルギーのオランダ語圏では午前10時頃のおやつを「ティエヌウルトイエ」、午後4時頃のおやつを「フィエウルトイエ」と呼びます。オランダでは「コフィテイト (コーヒータイム)」として、コーヒーとケーキやビスケットを楽しみます。地域差があり、北部では質素なスタイル、南部では「フラーイ」という甘いパイが供されることもあります。ハンガリーでは「ティゾライ」、ポーランドでは「ドゥルギ・シニダニエ (2回目の朝食)」と呼ばれ、スペインでは「アルムエルソ」「オンセ」「メリエンダ・メディア・マニャーナ」など、地域によって様々な呼び名で軽食が楽しまれています。イタリアでは「スプンティーノ」として、コーヒーとチョコやビスケットなどを楽しみます。

スウェーデン：フィーカ

スウェーデンでは「フィーカ (Fika)」と呼ばれる、コーヒーブレイクが日常生活に深く根付いています。午前10時頃と午後3時頃に15分～30分の休憩時間を取ることが一般的で、午前11時頃に行われるものは「エルバカッフェ」と呼ばれます。シナモンロールなどのパン菓子と一緒にコーヒーや紅茶を楽しみながら、同僚や家族と交流したり、一人でリラックスする時間として活用されています。

フィンランド、デンマーク、ノルウェー

フィンランドでは労働法で定められた「カハヴィタウコ (コーヒーブレイク)」があり、デンマークでは「ヒュッゲ」な時間を楽しみ、ノルウェーでは「コーシェリ」としてコーヒーブレイクを過ごします。

アジア・オセアニア

インドでは「チャイブレイク」があり、オーストラリアとニュージーランドでは「モーニングティー」または「スモコ」として知られています。

北アメリカ・南アメリカ

アメリカでは「コーヒーブレイク」として知られており、チリでは夕食代わりになることもある「ラス・オンセ」または「ラ・オンセ」、コロンビアでは「オンセス」や「メディアス・ヌエベス」として楽しまれています。

ポップカルチャーにおけるイレブンジズ

くまのプーさんやパディントンベアなどの物語にも、イレブンジズが登場します。指輪物語では、ホビット族のビルボの誕生日パーティーがイレブンジズの時間帯から始まったことが記されています。

まとめ

イレブンジズは、イギリス発祥の午前11時頃の軽食習慣ですが、世界各地で独自の文化として発展し、人々の生活に深く根付いていることがわかります。各国・各地域のイレブンジズに類似した習慣を理解することで、異文化理解を深める一助となるでしょう。

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