フリースラント

フリースラント：北海の自由な風土

フリースラントは、オランダとドイツの北海沿岸に広がる歴史と文化豊かな地域です。オランダ語ではFriesland、ドイツ語でもFrieslandと呼ばれ、独自の言語であるフリスク語（フリジア語）ではFryslânと表記されます。沖合にはフリースラント諸島が連なり、北海から隔てられたワッデン海という広大な干潟を含む独特の自然環境を形成しています。

地理と自然：ワッデン海とテルプ

フリースラントは、西フリースラント（オランダの南ホラント州、北ホラント州の一部、フリースラント州、フローニンゲン州）、東フリースラント（ドイツのニーダーザクセン州の一部）、北フリースラント（ドイツのシュレースヴィヒ＝ホルシュタイン州の一部）の3つの地方に大別されます。それぞれの地方には、フリースラント諸島の一部が含まれます。

北海の潮の満ち引きが激しいこの地域では、古くから人々はテルプと呼ばれる人工の盛り土の上に家を建てて生活してきました。博物学者プリニウスは、テルプの上の家を船に例えたと伝えられています。ドイツ風の様式を基本としつつも、屋根の葺き方はオランダやドイツとは異なる独自のものです。12世紀頃から海岸線に堤防が築かれ、1200年頃にはフリースラント全体が堤防で囲まれるようになりました。

農業は酪農が中心で、フリージアン種と呼ばれる牛を飼育しています。穀物栽培は盛んではありません。

歴史：自由な農民と激動の時代

フリースラントには、紀元前5世紀頃から人々が定住し始めました。ローマ帝国衰退後、ゲルマン系のフリース人がこの地を拠点にフリースラント王国を築きますが、734年にはフランク王国のカール・マルテルに征服されます（フリースラント・フランク戦争）。フランク王国はキリスト教の布教を試みますが、ボニファティウスの殉教など、その過程は容易ではありませんでした。

7世紀から8世紀にかけては、フリース人の水路を使った商業活動が活発化し、ドイツ内陸部、イギリス、フランス、スカンディナヴィア半島へと進出していきました。9世紀以降はノルマン人の襲来を受けますが、885年にはホラント家のヘルルフによってノルマン人の支配は終焉を迎えます。

11世紀にはブラウンシュヴァイク伯の領地となり、12世紀にはホラント伯とユトレヒト司教の共同統治領となりますが、統治は形式的なものでした。13世紀にはホラント伯ウィレム2世がフリースラント遠征で戦死するなど、ホラント伯によるフリースラント支配の試みはことごとく失敗に終わります。

フリースラントは「領主なきフリースラント」と呼ばれるほど、封建制や領主制が定着せず、住民は自由身分の農民でした。これは当時西ヨーロッパでは珍しい状況でした。14世紀から15世紀にかけては私的権力組織による私闘が頻発したと言われています。1524年、神聖ローマ皇帝カール5世による併合によって、長きにわたる領主不在の時代は幕を閉じます。

オランダの中でも開発が遅れていたフリースラントですが、ゾイデル海とワッデン海を締め切る大規模な堤防の建設により、中心地域との時間的距離が縮まり、急速な発展を遂げます。

文化：フリスク語と独自の伝統

フリースラントは、古くからフリース人が居住し、独自の文化を育んできました。現在もフリスク語（フリジア語）が話されており、学校では第二言語として教育されています。フリスク語はオランダ語よりも英語に近い特徴を持つと言われ、北海漁業を通じてイングランドの漁民と接触した影響とする説があります。フリスク語による書籍、新聞、ラジオ放送があり、独自の民族音楽も存在しています。フリースラントの文化は、北海の自由な風土と歴史の中で育まれた独特の魅力にあふれています。

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