イワトコナマズ

イワトコナマズ：岩場を好む希少な固有種

イワトコナマズ（学名: Silurus lithophilus）は、ナマズ目に属する日本固有の淡水魚です。琵琶湖、余呉湖、およびそれらに繋がる水系にのみ生息しており、他のナマズとは異なる独特な生態を持っています。

分布と生息環境

イワトコナマズは、その名の通り「岩床」を意味する「イワトコ」に由来し、岩礁地帯を好んで生息します。これは、泥底や藻場を好むマナマズやビワコオオナマズとは対照的です。琵琶湖の中でも、特に北部の岩礁域に多く分布し、南部ではその姿を見ることは稀です。

形態

イワトコナマズは、他のナマズ類と同様に、平たい頭部と大きな口、そして感覚器官として発達した4本の口ヒゲを持っています。体長は約50cmで、背鰭は小さいものの、臀鰭の基底は長いのが特徴です。体色はやや黒ずんでおり、全身に黄褐色の斑紋があるのが特徴で、これはマナマズやビワコオオナマズと見分けるポイントになります。また、目の位置も特徴的で、他の2種がやや背中寄りなのに対し、イワトコナマズは側面に位置し、腹側からも確認できます。骨格的な特徴からは、マナマズと最も近縁であることが示唆されています。

まれに、全身が黄色や赤色をした個体が見つかることがあります。これらはアルビノの一種であり、かつては別種として扱われていましたが、現在ではイワトコナマズの変異個体として認識されています。特に黄色の個体は「弁天ナマズ」と呼ばれ、漁師の間では縁起の良いものとして大切にされています。

生態

イワトコナマズは夜行性で、日中は岩陰に潜んでいますが、夜になると活発に活動します。主な食性は、水底の小型甲殻類や昆虫ですが、ゲンゴロウブナなどの小魚を捕食することもあります。他のナマズ類と比較して、魚食性はそれほど強くないと考えられています。しかし、その生態については不明な点が多く、今後の詳しい調査が求められています。

繁殖

繁殖期は6月中旬から下旬の梅雨の時期で、降雨の前後に水深4m以浅の礫底に集まり、産卵を行います。繁殖行動は、雄が雌に巻き付くというナマズ類独特のもので、ビワコオオナマズのそれと類似しています。卵は黄褐色ゼリー状で、表面が不整で粘着性を持たないのが特徴です。水温22℃の条件下では、約55-60時間で孵化しますが、仔魚期以降の成長過程については、ほとんど解明されていません。

利用

イワトコナマズは、岩礁地帯に生息するため泥臭さが少なく、日本産ナマズ類の中では最も美味しいとされています。産卵期には定置網、冬期には延縄で漁獲され、主に琵琶湖周辺地域で消費されます。かつては、他のナマズ類に比べて高値で取引されていたことが記録されています。

研究史

イワトコナマズが新種として記載されたのは1961年のことですが、琵琶湖に3種類のナマズが生息していることは、古くから漁師の間では知られていました。1806年に成立した『湖魚考』や、1815年の『湖魚図證』には、それぞれ「イワトコナマズ」や「イハトコ」の名前が登場します。しかし、明治時代以降、近代的な分類が進められると、琵琶湖のナマズはすべてマナマズとして扱われるようになり、地元水産関係者の認識は顧みられませんでした。

1950年代後半になり、ようやく友田淑郎によって、琵琶湖のナマズがマナマズとは異なる別種であることが科学的に証明されました。友田は1961年にイワトコナマズを新種として記載し、その名前は『湖魚考』や漁師の呼称を元に決定されました。しかし、イワトコナマズに関する研究はビワコオオナマズに比べて少なく、生態や個体数の動向など、不明な点が多く残されています。

保全状況

イワトコナマズは、環境省のレッドリストで準絶滅危惧（NT）に指定されており、その保全が求められています。生息地の減少や環境変化など、さまざまな要因によって個体数が減少していると考えられています。今後の調査研究によって、適切な保全対策を講じることが必要です。

まとめ

イワトコナマズは、琵琶湖の豊かな生態系を象徴する貴重な固有種です。その独特な生態や美しい姿は、私たちを魅了してやみません。しかし、その存在は危機に瀕しており、私たち一人ひとりがその保護に関心を持つことが重要です。

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