イワン・コズロフスキー

イワン・コズロフスキー（Иван Семёнович Козловский）は、1900年3月24日にロシア帝国キエフ県（現在のウクライナ・キーウ州）ヴァシリキフ地区近郊のマリャニフカ村で生まれ、ソビエト連邦時代に最も偉大なテノール歌手の一人として国際的に名を馳せました。

幼少期から音楽に親しみ、わずか7歳でキーウの聖ミハイール黄金ドーム修道院附属の聖歌隊に入り、歌の才能を開花させました。当時、著名な宗教音楽作曲家アレクサンドル・コシツもこの修道院に在籍しており、彼にとって初期の重要な音楽環境となりました。その後、キーウのトロイツキー人民会堂（後のニコライ・サドフ劇場）でも歌い始めます。

1917年から1920年にかけては、キーウにある高等音楽-演劇大学（現在のキエフ国立演劇・映画・テレビ大学）の声楽クラスで、エレーナ・ムラヴィヨヴァに師事し、本格的な声楽教育を受けました。

1920年から1923年にかけては、赤軍の軍務に服し、ポルタヴァに駐屯しました。この期間中の1922年には、ポルタヴァの音楽-演劇移動劇場に参加し、ここでシャルル・グノーのオペラ『ファウスト』のタイトルロールを歌い、初めて主要な役を得てキャリアを積んでいきました。その後も、1924年にはハリコフのロシア国立オペラ（現在のハリコフオペラ・バレエ劇場）、1925年から1926年にかけてはスヴェルドロフスク国立オペラ劇場（現在のエカテリンブルクオペラ・バレエ劇場）でソリストとして活躍し、経験を重ねました。

彼のキャリアにおける最大の転機は、1926年にモスクワのボリショイ劇場に招かれたことでした。ここでジュゼッペ・ヴェルディのオペラ『椿姫』のアルフレード役でデビューを飾り、瞬く間に劇場の主要なテノール歌手としての地位を確立しました。彼は数多くのオペラで主役を務め、その人気は絶大なものとなりました。特に1930年代後半には、当時のソビエト連邦の指導者ヨシフ・スターリンが寵愛する歌手の一人となり、その存在感は揺るぎないものとなりました。同時期に活躍したテノール歌手セルゲイ・レメシェフと並び称され、二人は1930年代から1950年代にかけてのボリショイ劇場を代表する人気歌手として、多くの聴衆を魅了しました。

しかし、人気絶頂期であった1954年に、彼は突然ボリショイ劇場を去ります。この決断の理由は今日に至るまで明確には分かっていません。

コズロフスキーは、自身のルーツであるウクライナの音楽に対しても深い愛情を持ち、その普及に熱心に取り組みました。ミコラ・アルカスやミコラ・リセンコといったウクライナの作曲家の作品を積極的に歌い、彼らの音楽を世に広めました。特に、1940年にはタラス・シェフチェンコの作品に基づくアルカスのオペラ『カテリーナ』の初演、1954年にはイヴァン・コトリャレーウシキーの戯曲に基づくリセンコのオペラ『ポルターヴァのナタールカ』の初演を指揮するなど、重要な役割を果たしています。さらに、ウクライナの民謡やロマンス、オペラアリアなどを多数録音し、およそ20枚のレコードとして残しており、これはウクライナ音楽の貴重な遺産となっています。

彼の活動は舞台上にとどまらず、映画の中でもその歌声を披露しています。例えば、モスフィルム製作の映画版『ボリス・ゴドゥノフ』などに出演し、より広い層に彼の芸術を届けました。

その卓越した功績は高く評価され、ソビエト連邦から数々の栄誉を授与されました。1940年にはソ連人民芸術家の称号を、1980年には社会主義労働英雄の金星勲章を受章しています。また、優れた業績に対して贈られるスターリン賞も、1941年と1949年に第1段階領域で受賞するなど、ソビエト文化界における彼の地位がいかに高かったかを物語っています。

イワン・コズロフスキーは、1993年12月21日、93年の生涯を終えモスクワで死去しました。彼の墓は、ロシアの著名な文化人や政治家が多く眠るモスクワのノヴォデヴィチ墓地にあります。

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