イングランドの女王エリザベッタ

イングランドの女王エリザベッタ

『イングランドの女王エリザベッタ』（伊: Elisabetta, regina d'Inghilterra）は、ジョアキーノ・ロッシーニが1815年に作曲した2幕のオペラ・セリアです。ソフィア・リーの小説『議会休会』を基にしたカルロ・フェデリーチの戯曲『レスターの小姓』が原作となっています。

作品概要

作曲：ジョアキーノ・ロッシーニ
台本：ジョヴァンニ・フェデリーコ・シュミット
初演：1815年10月4日、ナポリ・サン・カルロ劇場
演奏時間：序曲7分、第1幕65分、第2幕64分

ロッシーニとナポリ

本作は、ロッシーニがナポリのサン・カルロ劇場の為に作曲した9つのオペラの中で最初の作品です。ロッシーニは『タンクレーディ』や『アルジェのイタリア女』で既に北イタリアで名声を確立しており、サン・カルロ劇場のインプレサリオ、ドメニコ・バルバイヤからの依頼は、ロッシーニにとって大きなチャンスでした。当時、イタリア・オペラにおいて最も重要な都市の一つであったナポリでの成功は、ロッシーニのキャリアを大きく飛躍させるものとなりました。

上演に際し、バルバイヤはサン・カルロ劇場を代表するスター歌手たちをロッシーニに約束しました。その中には、後にロッシーニの妻となるイザベラ・コルブランもいました。彼女は当時のサン・カルロ劇場のプリマドンナ・アッソルータであり、バルバイヤの愛人でもありました。また、ノーフォーク伯を演じたマヌエル・ガルシアは、後に『セヴィリアの理髪師』でアルマヴィーヴァ伯爵を演じ、ロッシーニの代表的な歌手として名を残しました。本作の成功により、ロッシーニはジョヴァンニ・パイジェッロやニコラ・ツィンガレッリといったナポリ楽派に代わる、新時代のオペラ作曲家としての地位を確立しました。

登場人物

エリザベッタ（イングランド女王）：ソプラノ
レスター伯ロベルト・ダドリー：テノール
マティルデ（レスター伯の妻）：ソプラノ
ノルフォルク伯：テノール

あらすじ

物語は、エリザベス1世と彼女の寵臣であるレスター伯ロバート・ダドリー、そしてエリザベスのライバルであったスコットランド女王メアリー・ステュアートを巡る陰謀を中心に展開されます。女王エリザベッタはレスター伯を愛していますが、レスター伯は密かにマティルデと結婚しています。スコットランド女王の血を引くマティルデの存在は、エリザベッタにとって政治的な脅威となり、愛と政治の葛藤が描かれます。レスター伯の友人であるノーフォーク伯は、レスター伯への嫉妬から陰謀を企て、物語は複雑さを増していきます。

最終的に、レスター伯は女王への忠誠を示し、女王もまた恋を捨て、イングランドの女王として生きることを決意します。全てを許し、裏切り者を罰することで、女王は自らの威厳を示し、物語は幕を閉じます。

楽曲構成

序曲
第1幕
イントロダクション「'幸福でより美しく」
カヴァティーナ 「エリーサよ、喜べ ― 我が心にどれほど喜ばしいことか」 (エリザベッタ)
二重唱 「無謀な、なぜここへ?」 (レイチェステル、マティルデ)
カヴァティーナ 「内なる声が聞こえる」 (マティルデ)
二重唱 「なぜ残酷な運命が」 (ノルフォルク、エリザベッタ)
第1幕フィナーレ 「もし、王位を受け入れたら」
第2幕
三重唱 「それだけを考えよ」 (エリザベッタ, マティルデ, レイチェステル)
カヴァティーナ 「この足元に住む ― ああ!彼の鎖を断ち切ってくれ 」 (ノルフォルク)
アリア 「愛する妻よ」 (レイチェステル)
二重唱 「ああ、言い訳はするな」 (レイチェステル, ノルフォルク)
第2幕フィナーレ
カヴァティーナ 「裏切り者よ、恐れるがよい」 (エリザベッタ)
アリア 「美しく立派な心の人たちよ」 (エリザベッタ)
* カヴァレッタ 「この心より恋よ去れ」 (エリザベッタ)

上演史

1817年にロンドンでイギリス初演が行われましたが、19世紀以降は上演機会が減少しました。1953年にミラノで復活上演されて以降、1970年代から本格的な録音や上演が行われるようになりました。モンセラート・カバリェやレイラ・ジェンチェルなどがタイトルロールを演じています。

もう一度検索