オペラ・セリア

オペラ・セリア：18世紀ヨーロッパを彩った華麗なる歌劇

オペラ・セリア（Opera seria）は、「正歌劇」を意味するイタリア語で、1710年代から1770年頃にかけてヨーロッパで圧倒的な人気を誇った歌劇のジャンルです。その特徴は、高貴で「シリアス」（真面目）な内容を、音楽と歌唱で表現することにありました。

オペラ・セリアの特徴

高貴でシリアスな内容: 物語は、古代ギリシャ・ローマの英雄や神々を題材にしたものが多く、愛、名誉、義務といった普遍的なテーマが描かれました。
イタリア語による歌唱: オペラ台本は例外なくイタリア語で書かれ、その美しい響きが音楽と一体となって観客を魅了しました。
ダ・カーポ・アリアの多用: 「A-B-A」の三部形式で構成されたダ・カーポ・アリアは、オペラ・セリアの重要な要素であり、歌手の技巧を披露する場でもありました。
カストラートの活躍: 思春期前に去勢手術を受け、高度な歌唱技術を習得した男性歌手カストラートは、オペラ・セリアの主役を担い、観客を熱狂させました。

オペラ・セリアの構造

オペラ・セリアは、厳格な形式に則って構成されていました。

1. 序曲（シンフォニア）: 3楽章形式の器楽曲で、これから始まる劇の雰囲気を盛り上げます。
2. レチタティーヴォ: 台詞を歌う部分で、通奏低音のみの伴奏によるレチタティーヴォ・セッコと、オーケストラ伴奏によるレチタティーヴォ・ストロメンタートがあります。
3. アリア: 登場人物の感情を表現する独唱曲で、ダ・カーポ・アリアが多用されました。
4. 二重唱（デュエット）: 主役の恋人同士が歌う場面で、感情の高まりを表現します。
5. 合唱: 最後に、喜びや祝福を表現する合唱で締めくくられます。

オペラ・セリアの歴史

オペラ・セリアは、18世紀初頭にアレッサンドロ・スカルラッティやアポストロ・ゼーノらによって基礎が築かれ、メタスタージオの台本によって確立されました。メタスタージオは、古代の英雄や神々を主人公にした高潔な物語を書き、その台本に、ハッセ、ヴィンチ、グルックなど、多くの作曲家が曲をつけました。

1740年代以降、オペラ・セリアは変化の時期を迎えます。ヨンメッリやトラエッタといった作曲家によって、フランス・オペラの要素が取り入れられ、よりドラマティックな表現が追求されました。そして、グルックの改革オペラによって、オペラ・セリアは新たな方向へと進み始めます。

オペラ・セリアの社会背景

オペラ・セリアは、主に宮廷や貴族の間で楽しまれていました。作品の内容は、君主の権威や美徳を称えるものが多く、観客もまた、その高貴な世界観に浸ることを求めていました。しかし、フランス革命以降、社会が大きく変化すると、オペラ・セリアはその存在意義を失い、次第に衰退していきました。

オペラ・セリアの作曲家と歌手

オペラ・セリアを代表する作曲家には、以下のような人物がいます。

アレッサンドロ・スカルラッティ
ヨハン・アドルフ・ハッセ
レオナルド・ヴィンチ
ニコラ・ポルポラ
ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル
クリストフ・ヴィリバルト・グルック
* ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

また、オペラ・セリアの舞台を彩った歌手には、カストラートのファリネッリやセネジーノなどがいます。

オペラ・セリアは、18世紀のヨーロッパ社会を反映した、華麗で格調高い歌劇でした。その音楽、ドラマ、そして舞台芸術は、現代においても多くの人々を魅了し続けています。

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