インスマス

インスマス：クトゥルフ神話における謎めいた港町

マサチューセッツ州エセックス郡、マニューゼット川河口に位置するインスマスは、作家H・P・ラヴクラフトが創造した架空の港町です。1643年の建設以来、漁業や貿易で栄えましたが、19世紀以降は衰退の一途を辿り、現代では廃墟と化したゴーストタウンとなっています。ラヴクラフトの代表作『インスマスの影』を始め、多くのクトゥルフ神話作品に繰り返し登場し、その不気味な魅力で読者を魅了し続けています。

繁栄から衰退へ：インスマスの歴史

初期のインスマスは、北岸の高級住宅地が示すように、貿易と漁業で繁栄を謳歌していました。しかし、1812年の米英戦争による不況を機に、町は新たな転換期を迎えます。オーベッド・マーシュ船長という人物が、ポリネシア島民との交易で得た金を用いて川の精錬工場を建設。この工場を中核に工業地区が発展し、周辺地域の軽工業の中心地となりました。

しかし、1846年に発生した謎の伝染病によって住民の半数以上が死亡。その後も南北戦争や漁場の荒廃など、数々の災厄に見舞われ、1920年代までには衰退の道を辿ります。

ダゴン秘密教団と異形の住民

インスマスの衰退過程において、重要な役割を果たしたのが、オーベッド・マーシュ船長が創設したダゴン秘密教団です。この教団は、深きものどもへの崇拝を基盤としており、町の支配権を掌握しました。

教団の影響下にあるインスマスの住民は、青白い肌に蛙のような独特の容貌を持つ者が多いです。これを「インスマス面」と呼び、周辺住民からは忌み嫌われています。この異形の容貌は、深きものどもとの混血が原因だと噂されています。住民は目も大きく、まばたきが少ないのが特徴で、歩き方も独特です。

アメリカ政府による一斉検挙とその後

1927年には、アメリカ政府による一斉検挙が行われ、インスマスはさらに荒廃しました。この検挙の理由は公式には密造酒の取り締まりとされていますが、その裏には深きものどもとの関わり、そして教団の陰謀が潜んでいると考えられています。この検挙劇において、悪魔の岩礁への魚雷攻撃という不可解な出来事も発生しています。

その後、ダーレスの小説『永劫の探究』では、エイハブ・マーシュによって再興を図られるも、再び主人公らによって潰されるという描写がなされています。

現実と虚構の狭間：インスマスの地理的考察

インスマスの位置については、現実のマサチューセッツ州エセックス郡の地名と照らし合わせ、いくつかの推測がなされています。しかし、ラヴクラフト作品におけるアーカムやセイラムのように、現実の地形と完全に一致する訳ではありません。また、ラヴクラフトの初期作品『セレファイス』にも同名の地名が登場しますが、こちらはイングランドの村として描かれています。

多様な作品への登場

インスマスは『インスマスの影』以外にも、多くのクトゥルフ神話作品に登場しています。ラヴクラフト自身による作品に加え、オーガスト・ダーレスや、他の多くの作家によるクトゥルフ神話作品にもインスマスは重要な舞台として描かれており、その謎めいた魅力は、多くの作家や読者を魅了し続けているのです。漫画作品にもインスマスを舞台とした作品が存在しています。

未解明の謎

1846年の疫病、1927年の一斉検挙、そして住民の異形の容貌…インスマスには未解明の謎が多く残されています。これらの謎は、読者の想像力を掻き立て、クトゥルフ神話の不可解な魅力を象徴する存在となっています。インスマスは、これからも多くの読者や作家を惹きつけ、クトゥルフ神話の象徴的な舞台として語り継がれていくことでしょう。

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