深きものども

深きものども：クトゥルフ神話の深海からの脅威

深きものども（Deep Ones）は、クトゥルフ神話において重要な役割を担う、半人半魚の姿をした架空の生物です。ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説『インスマウスの影』で初登場を果たしましたが、その存在は先行作品『ダゴン』にも暗示的に描かれています。オーガスト・ダーレスの作品では主要な敵対勢力として描かれ、クトゥルフ神話の悪役、あるいは邪神に仕える存在として広く知られるようになりました。

生物的特徴：異形の姿と奇怪な生態

深きものどもは、基本的に人型をしていますが、顔つきや体格には魚や両生類の特徴が色濃く表れています。目は大きく眼窩から突出しており、まばたきはしません。肌はザラザラとしており、色は灰色、青白い色、緑色など様々です。腹部は白くぬめぬめとしており、背中には魚のような鰭、尻尾を持つ個体もいます。指の間には水かきがあり、独特のガニ股歩行で移動します。会話は唸り声のようなもので行われます。老衰で死ぬことはなく、外的な要因でしか命を落とすことはありません。

これらの特徴から、深きものどもは近隣の住民から強い嫌悪感を抱かれており、特にインスマウスではその存在が忌み嫌われています。ラヴクラフトの作品では、性的な描写や人種間の混血については詳細に言及されていません。

人間との混血も特徴の一つです。混血児は幼少期は人間と全く同じ姿をしていますが、成長と共に深きものども特有の容貌へと変化していきます。この変化の速度や程度は個体差があり、生涯変化しない者も存在します。

社会構造と活動：クトゥルフへの信仰と地上侵略

深きものどもは、クトゥルフを神として崇拝し、その眷属として活動しています。海底都市で生活し、父なるダゴンと母なるヒュドラを長として従っています。地上では衣服を着用し、家族や親族との強い結びつきを持っています。人間と契約を結び、生贄と引き換えに富や豊漁を与えたり、人間と交配することで地上侵略を企てているとされています。敵対者に対しては暴力的な手段を用いることも珍しくありません。

海底都市イハ＝ントレイ：深きものどもの隠れ家

イハ＝ントレイ（Y'ha-nthlei）は、インスマウス沖の海底に位置する深きものどもの都市です。ラヴクラフトの作品において唯一描かれた深きものどもの海底都市であり、アメリカ海軍の爆撃によって破壊されたとされています。他のクトゥルフ神話作家も独自の深きものどもの都市を設定していますが、イハ＝ントレイは最も有名なものの一つです。

敵対勢力と克服への試み

深きものどもは、地上侵略を阻止しようとする者、クトゥルフ復活を妨げる者を敵とみなします。また、クトゥルフ神話における旧支配者たちの勢力争いにも巻き込まれることがあります。炎や「旧神の護り石」のパワーを苦手としています。

ラヴクラフトと深きものども：異形の描写と文化的解釈

ラヴクラフトは、『インスマウスの影』において、深きものどもの血を引く主人公が、自らの出自を受け入れる過程を描いています。これは、自己嫌悪と受容という複雑なテーマを扱った作品と言えるでしょう。ダーレスによる「魚類人」や「両生類人」といった表現については、ラヴクラフト自身は否定的な見解を持っていたとされています。ラヴクラフトは、言葉による描写よりも、視覚的イメージや感覚的な描写を用いることで、深きものどもの異形さを表現しています。

関連作品と文化的影響

深きものどもは、多くのクトゥルフ神話作品に登場し、その姿や生態は様々な解釈を生み出してきました。ラヴクラフト、ダーレスの作品以外にも、第二世代以降の作家による作品や、映画、ドラマなどでも深きものどもは重要な存在として描かれています。ティキの偶像やマオリ族の彫刻など、様々な文化的なモチーフと関連付けられることもあります。

まとめ

深きものどもは、クトゥルフ神話において、その異形な姿と不可解な生態、そして人間との複雑な関係性によって、多くの読者やクリエイターを魅了し続けている存在です。クトゥルフ神話を語る上で欠かせない、重要なクリーチャーと言えるでしょう。

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