インラック・シナワット

インラック・シナワット：タイ初の女性首相の生涯と政治的波乱

インラック・シナワット（Yingluck Shinawatra）は、1967年6月21日にタイのサンカムペーンで生まれました。彼女は、タイの有力な政治家一族であるシナワット家の出身で、兄は元首相のタクシン・シナワット、義兄もまた元首相という政治的な環境で育ちました。客家系華人としてのルーツも持ち、中国名は丘英楽です。

教育とキャリア

インラックは、チェンマイ大学で政治学を学んだ後、アメリカに留学し、ケンタッキー州立大学で行政学修士号を取得しました。帰国後は、シナワット一族が経営する企業グループに入社し、様々な役職を歴任しました。アドバンスト・インフォ・サービスの社長や、マンチェスター・シティFCの専務取締役など、ビジネスの世界で幅広い経験を積みました。

首相への道

2011年、インラックはタイ貢献党の首相候補として、人民代表院総選挙に臨みました。彼女は、その経営手腕と名門一族の出身という背景から、高い期待を集めました。選挙戦では、タイ貢献党が過半数を大きく上回る議席を獲得し、インラックはタイ史上初の女性首相に選出されました。連立政権を組織し、安定した政権運営を目指しました。

首相としての取り組み

首相在任中、インラックは国内の貧困対策や国民融和に尽力しました。また、2011年のタイ大洪水の際には、洪水対策の陣頭指揮を執り、バンコク中心部の浸水防止に貢献しました。当初は「兄の操り人形」と揶揄されたり、洪水対応の遅れを批判されたりもしましたが、経済の好調を背景に支持率を高め、ソフトな手腕で評価を得るようになりました。

しかし、国家安全保障会議事務局長の人事問題がきっかけとなり、2014年5月、憲法裁判所から縁者登用による憲法違反と認定され、首相を失職しました。

失職後の逃亡と裁判

さらに、コメの買い上げ制度に関連して、在任中に国に多額の損失を与えたとして、職務怠慢の罪で弾劾訴追されました。2017年8月、判決公判を病気を理由に欠席したため、逮捕状が発行され、カンボジア経由でアラブ首長国連邦のドバイに逃亡しました。

その後、最高裁はインラックに禁固5年の実刑判決を下しました。報道によれば、ドバイからイギリスへ渡り、亡命を求めているとされています。タイ政府は、インラックが所持していた旅券を無効にする処分を行いました。

その後の状況

兄タクシンはタイに帰国を果たしましたが、インラックについては、不逮捕となる見込みは立っていないためか、2024年8月現在もタイに帰国していません。

人物像

インラックは、タイ初の女性首相として、積極的に内政に取り組みました。彼女は、女性の社会進出の重要性を認識しており、「女性が収入を得ることは、国の経済と家計に重要な意味があり、男性にも良い影響を与える」と語っています。趣味は水泳と音楽鑑賞で、息子を育てながら首相の激務をこなしました。

まとめ

インラック・シナワットは、タイの歴史に名を刻む女性政治家です。彼女の首相としての業績は、貧困対策や国民融和など多くの成果を上げましたが、同時に、政治的混乱や裁判、国外逃亡という波乱に満ちたものでもありました。彼女のキャリアは、タイの政治史における重要な事例として、今後も語り継がれるでしょう。

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