インランド・エンパイア (映画)

映画『インランド・エンパイア』解説

『インランド・エンパイア』（原題: Inland Empire）は、2006年に公開されたデヴィッド・リンチ監督によるアメリカ合衆国とポーランドの合作映画です。主演はローラ・ダーン。

概要

本作は、ハリウッドの女優、ポーランドからの密入国者、そしてウサギの着ぐるみを着た家族など、複数の物語が複雑に絡み合う、非常に難解で実験的な作品として知られています。デヴィッド・リンチ監督独特の映像美と、現実と虚構が入り混じる不条理な世界観は、観る者に深い印象を与えます。2007年には全米批評家協会賞の実験映画賞を受賞しました。

あらすじ

ハリウッド女優のニッキー・グレイス（ローラ・ダーン）は、新作映画『暗い明日の空の上で』の主役に抜擢され、監督（ジェレミー・アイアンズ）と共演者（ジャスティン・セロウ）とともに制作に意気込みます。しかし、この映画は過去に主役の二人が謎の死を遂げ、製作が中止されたいわくつきのポーランド民話を基にした映画『47』のリメイクであることが判明します。
撮影が進むにつれて、ニッキーの周りでは不可解な出来事が頻発し、彼女は現実と映画の世界の境界線が曖昧になっていく感覚に陥ります。物語は複雑に絡み合い、観客は混乱と不安に包まれながら、映画の深淵へと引き込まれていきます。

キャスト

ニッキー・グレイス/スーザン・ブルー: ローラ・ダーン
キングスリー・スチュワート: ジェレミー・アイアンズ
デヴォン・バーク/ビリー・サイド: ジャスティン・セロウ
フレディ・ハワード: ハリー・ディーン・スタントン
ジャック・ラビット: スコット・コフィ
マリリン・レヴェンス: ダイアン・ラッド
ドリス・サイド: ジュリア・オーモンド
ビジター1: グレイス・ザブリスキー
ビジター2: メアリー・スティーンバージェン
ジェーン: ローラ・ハリング
黄色いドレスの女: ナスターシャ・キンスキー
アナウンサー: ウィリアム・H・メイシー
ウサギの声: ナオミ・ワッツ
ストリートパーソン2: 裕木奈江

その他、マイケル・パレなどが出演しています。

サウンドトラック

音楽は、デヴィッド・リンチ自身が作曲した楽曲をはじめ、クラシック音楽、ジャズ、ロックなど多様なジャンルの楽曲が使用されています。以下に主な楽曲を記載します。

David Lynch – "Ghost of Love"
David Lynch – "Rabbits Theme"
Mantovani – "Colors of My Life"
David Lynch – "Woods Variation"
Dave Brubeck – "Three to Get Ready"
ボグスワフ・シェッフェル – "Klavier Konzert"
Kroke – "The Secrets of the Life Tree"
Little Eva – "The Locomotion"
David Lynch – "Call from the Past"
クシシュトフ・ペンデレツキ – "Als Jakob erwachte"
ヴィトルト・ルトスワフスキ – "Novelette Conclusion" (excerpt) / Joey Altruda – "Lisa" (edit)
Beck – "Black Tambourine" (film version)
David Lynch – "Mansion Theme"
David Lynch – "Walkin' on the Sky"
David Lynch / Marek Zebrowski – "Polish Night Music No. 1"
David Lynch / Chrysta Bell – "Polish Poem"
Nina Simone – "Sinnerman" (edit)

作品解説

本作は、リンチ監督が好きな時に俳優を呼び、自らカメラを回して撮影した断片をつなぎ合わせていくという、独特な制作方法で撮影されました。そのため、制作期間は2年半にも及び、資金調達にも苦労したと言われています。
リンチ監督自身は、この映画を「トラブルに陥った女の話」とだけ語っており、脚本も明確には存在しませんでした。撮影中に毎朝、監督が役者に書きたての台本を渡していたというエピソードも残っています。

撮影

全編デジタルビデオで撮影され、使用されたカメラはソニーのDSR-PD150です。リンチ監督は、今後フィルムを使っての映画製作はしないだろうと述べています。

舞台

主な撮影場所はロサンゼルスとポーランドのウッチです。ポーランドでは、地元の俳優も多数起用されました。

Rabbits

リンチ監督が運営する会員制サイトで公開された『Rabbits』の一部が、本作で使用されています。『Rabbits』には、ナオミ・ワッツやローラ・ハリングらが出演していますが、全員がウサギのマスクを被っているため、判別は困難です。

プロモーション

プロモーション活動の一環として、リンチ監督は乳牛とともにハリウッドの路上に現れ、「チーズがなければインランド・エンパイアは無かった」と書かれたバナーを掲げました。このユニークなプロモーションは、話題を呼びました。

公開

本作は、2006年の第63回ヴェネツィア国際映画祭でプレミア上映され、その後、ニューヨーク映画祭でも上映されました。日本では、2007年7月21日に劇場公開されました。

ソフト

映像ソフトは、リンチ監督が完全にコントロールできる自主配給によってリリースされました。DVDにはチャプター選択がなく、2枚組バージョンには未公開シーンや、リンチ監督がキヌア料理を作る特典映像が収録されています。

豆知識

ナスターシャ・キンスキー、ウィリアム・H・メイシー、ローラ・ハリング、ローラ・ダーンの夫ベン・ハーパーなどがカメオ出演しています。
裕木奈江は、エキストラとしての出演予定でしたが、リンチ監督に気に入られ、セリフのある役で出演することになりました。

関連情報

サンバーナーディーノ
メソッド演技法

外部リンク

Official Website（英語）
Nate & Matt meet David Lynch (and a cow) - YouTube
デヴィッド・リンチ 『インランド・エンパイア』 - シネマトゥデイ
インランド・エンパイア - allcinema
インランド・エンパイア - KINENOTE
Inland Empire - オールムービー（英語）
Inland Empire - IMDb（英語）

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