メソッド演技法

メソッド演技法とは

メソッド演技法（Method acting）は、20世紀中頃にアメリカで生まれた演技理論およびその実践方法です。ロシアの演出家コンスタンチン・スタニスラフスキーの理論を基に、リー・ストラスバーグらによって体系化されました。この演技法の最大の特徴は、役の内面世界に深く入り込み、感情を追体験することによって、より自然で真に迫る演技を目指す点にあります。

メソッド演技法の概要

従来の演技法では、発声や身振り、パントマイムといったテクニックを用いて感情を表現していましたが、メソッド演技法は、これら形式的な手法を避け、より現実的な演技を追求します。役を演じるにあたっては、まず徹底的なリサーチを行い、役の置かれた状況や感情を自身の経験と照らし合わせ、追体験します。これにより、役の感情を内側から引き出し、自然でリアリティのある演技につなげようとします。

有名なメソッド演技の例としては、映画『波止場』でマーロン・ブランドが感情的に兄をなだめるシーンや、『エデンの東』でジェームズ・ディーンが父親に感情をぶつける場面などが挙げられます。

歴史

メソッド演技法のルーツは、ロシアの演劇家コンスタンチン・スタニスラフスキーの演技理論にあります。彼の教えを受けたリチャード・ボレスラフスキーとマリヤ・ウスペンスカヤは、1920年代にアメリカに亡命し、アメリカ実験室劇場でスタニスラフスキーの演技クラスを開催しました。

彼らの教えに感銘を受けたリー・ストラスバーグは、ハロルド・クラークマンやチェリル・クロフォードらと共に「グループ・シアター」を結成し、スタニスラフスキー・システムを導入。リアリズムを重視した演劇表現を目指しました。

1930年代のアメリカ大恐慌とニューディール政策を背景に、リアリズムとアンサンブルキャストが注目を集め、ストラスバーグの元にはステラ・アドラーやエリア・カザン、サンフォード・マイズナーといった才能が集まりました。グループ・シアターは、これらのメンバーによってメソッド演技法の原型を作り上げました。

しかし、長年の活動の中で、メンバー間の対立も生じました。アドラーは「ステラ・アドラー芸術学校」、マイズナーは「ネイバーフッド・プレイハウス演劇学校」を設立し、ストラスバーグは「アクターズ・スタジオ」の芸術監督に就任し、後進の育成に力を注ぎました。

1950年代には、エリア・カザンの活躍をきっかけに、マーロン・ブランド、ジェームズ・ディーン、ポール・ニューマンといったアクターズ・スタジオ出身の俳優たちがハリウッドに進出し、スクリーンでその演技を披露しました。彼らの自由で生々しい演技は、若い世代の観客に受け入れられ、新たなアイコンとしての地位を確立しました。

メソッド演技法への関心は高まり、マリリン・モンローもアクターズ・スタジオでストラスバーグの指導を受け、演技派女優へと成長しました。1960年代後半からは、ダスティン・ホフマン、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノといった俳優たちがスクリーンに進出し、メソッド演技法はアメリカ映画・演劇において重要な役割を果たすようになりました。

批判

メソッド演技法は、演劇界に大きな革新をもたらしましたが、批判や問題点も指摘されています。

メソッド演技法では、役の内面に深く入り込むため、役者自身の精神的な負担が大きく、アルコール依存や薬物依存などの問題を抱えるケースも少なくありません。マリリン・モンローやモンゴメリー・クリフトは、役作りに専念するあまり、自身のトラウマを掘り起こしてしまい、情緒不安定となり、役者人生に深刻な影響を及ぼしたとされています。また、ヒース・レジャーは、映画『ダークナイト』の役作りのために不眠症になり、睡眠薬の副作用で亡くなったとされています。

また、メソッド演技法は即興性が強いため、表現が不明瞭になりがちであり、リアリティを重視するあまり、役者の表現力や想像力を阻害するとの指摘もあります。特に、イギリスの俳優たちからは、ローレンス・オリヴィエやピーター・ユスティノフなどがメソッド演技法を批判しており、ヒュー・グラントやアンソニー・ホプキンスもその方法を揶揄する発言をしています。

まとめ

メソッド演技法は、役の内面世界に深く入り込み、感情を追体験することによって、より自然で真に迫る演技を追求する画期的な演技法です。しかし、その手法は役者の精神的な負担や、表現の不明瞭さを招くといった批判も存在します。メソッド演技法は、多くの俳優に影響を与え、映画史にその名を刻んでいますが、その功績と問題点を理解しておくことが重要です。

参考文献

リー・ストラスバーグ『メソードへの道』 米村あきら訳、劇書房、1989年
エドワード・D・イースティ『メソード演技』 米村あきら訳、劇書房、1995年
ロバート・H・ヘスマン編『リー・ストラスバーグとアクターズ・スタジオの俳優たち』 高山図南雄、さきえつや共訳、劇書房、新版2002年
アリソン・ホッジ編『二十世紀俳優トレーニング』 佐藤正紀ほか訳、而立書房、2005年
『エリア・カザン自伝』 佐々田英則・村川英共訳、朝日新聞社（上下）、1999年
『アクターズ・スタジオ　演劇革命　～J・ディーンからA・パチーノまで～』（1999年3月27日、NHK教育テレビ『知への旅』で放映）

関連項目

スタニスラフスキー・システム

外部リンク

メソッドってどんなの？（解説）（2010年3月27日時点のアーカイブ）
* メソッド演技について

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