イヴァン・リンス

ブラジル音楽界の至宝、イヴァン・リンス

イヴァン・リンス（本名：イヴァン・ギマランイス・リンス、1945年6月16日生まれ）は、ブラジルが誇るシンガーソングライターであり、ピアニストです。ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック（MPB）およびジャズの分野で、半世紀以上にわたりその才能を発揮し続けています。

異色のキャリアを持つ音楽家

リオ・デ・ジャネイロに生まれたリンスは、海軍技術者だった父の仕事の関係で、幼少期の一部をアメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンで過ごしました。帰国後、リオ・デ・ジャネイロ連邦大学で産業化学工学を専攻し、学位を取得するという異色の経歴を持ちます。さらに、音楽活動を本格化する前は、プロのバレーボール選手を目指していた時期もあったといいます。技術者やアスリートという道から音楽へと転じた彼のキャリアは、その幅広い音楽性と創造性の源泉の一つと言えるかもしれません。

国内での成功と国際的な評価

1970年代初頭に音楽シーンに登場したイヴァン・リンスは、すぐにブラジル国内で注目を集めました。特に、初期の代表曲「Madalena」は、ブラジルを代表する歌手の一人、エリス・レジーナが1970年に発表したカバーによって広く知られるところとなりました。これを皮切りに、彼は数々の名曲を生み出し、MPBシーンにおいて不動の地位を確立していきます。

彼の音楽は、メロディの美しさと洗練されたハーモニーが特徴であり、そのクオリティはブラジル国内に留まらず、世界的に高く評価されるようになりました。特にアメリカ合衆国のジャズ界において、彼の楽曲は多くのトップアーティストによって積極的に取り上げられました。「Love Dance」、「Começar de Novo（「The Island」としても知られる）」、「ヴェラス・イサーダス (Velas Içadas)」といった楽曲は、ジャズのスタンダードナンバーとして演奏される機会も多いです。

カーメン・マクレエ、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、クインシー・ジョーンズ、ジョージ・ベンソン、マンハッタン・トランスファー、ダイアン・シューア、ナンシー・ウィルソン、イリアーヌ・アライアス、パティ・オースティン、トゥーツ・シールマンス、TAKE 6、リー・リトナー、デイヴィッド・ベノワ、マーク・マーフィー、デイヴ・グルーシン、セルジオ・メンデス、マイケル・ブーブレ、そしてスティングといった、ジャズ、ポップス、フュージョンといったジャンルを超えた錚々たる顔ぶれのアーティストたちが、彼の作品をカバーし、その音楽的な影響力の大きさを証明しています。

ジャズ・フュージョン界との深い交流

イヴァン・リンスは、作曲家、シンガーとしてだけでなく、ピアニストとしてもジャズ・フュージョン界と深い関わりを持っています。1980年代中頃には、ギタリストのリー・リトナー、ピアニストのデイヴ・グルーシンという、このジャンルの重鎮たちと共にアルバム『ハーレクィン』を制作・発表し、大きな反響を呼びました。また、トランペット奏者のテレンス・ブランチャードが1996年にリリースしたイヴァン・リンスの作品集『ハート・スピーク〜プレイズ・イヴァン・リンス〜』には、ゲストボーカリストとして参加し、その表現力豊かな歌声を披露しています。リプリーズ・レコードやワーナー・ブラザース・レコードといった主要レーベルからのリリース経験も、彼の国際的な活動の一端を示しています。

日本との繋がりとその他の顔

イヴァン・リンスは、日本とも交流があります。2014年に発表された椎名林檎のアルバム『日出処』に収録された楽曲「赤道を越えたら」では、スキャットでのゲスト参加を果たし、日本のリスナーにもその存在感を示しました。

また、音楽とは直接関係ありませんが、彼はブラジルの名門サッカークラブ、フルミネンセFCの熱心なサポーターとしても知られており、同クラブの公式応援歌「Hino do Fluminense」を歌唱した経験もあるなど、多才な一面を持つ人物です。

まとめ

半世紀を超えるキャリアにおいて、イヴァン・リンスはブラジル音楽の豊かさとジャズの洗練を融合させた独自のスタイルを築き上げました。彼の生み出す普遍的なメロディと深い感情表現は、世代や国境を超えて多くの人々を魅了し続けています。ブラジル音楽史において、そして世界の音楽シーンにおいて、彼の功績は計り知れません。

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