イ・ムジチ合奏団

イ・ムジチ合奏団（I Musici）は、イタリアが誇る世界的に有名な弦楽アンサンブルです。その名称はイタリア語で「音楽家達」（The Musicians）を意味しており、しばしば「イ・ムジチ・ディ・ローマ」（I Musici di Roma、「ローマの音楽家達」）という名称でも知られています。

楽団の始まりは1951年、イタリアの首都ローマにあるサンタ・チェチーリア国立アカデミアにて、当時ヴァイオリンを学んでいた18歳のフェリックス・アーヨを中心とした同校の優秀な卒業生12名が集まったことに遡ります。彼らは翌1952年には、ヴェネツィアで開催された音楽祭で演奏デビューを果たし、その活動を本格的に開始しました。

イ・ムジチ合奏団の演奏スタイルにおける最大の特徴は、専門の指揮者を置かないことです。バロック時代のアンサンブルがそうであったように、楽団の中心となるコンサート・マスターが演奏全体をリードし、楽員全員が互いの音を聴き、調和しながら音楽を創り上げていきます。このスタイルは、メンバー間の緊密なコミュニケーションと高度なアンサンブル能力によって支えられています。楽団の編成は、ヴァイオリン6名、ヴィオラ2名、チェロ2名、コントラバス1名、そしてチェンバロ1台の、総勢12名で構成されています。

彼らはイタリア国内はもとより、世界のバロック音楽界において最も高い評価を得ている楽団の一つです。特に日本におけるその人気は絶大であり、数多くの音楽ファンに愛されています。彼らの演奏の中でも、アントニオ・ヴィヴァルディ作曲のヴァイオリン協奏曲集『四季』は、楽団の代名詞とも言える存在です。

この『四季』の演奏は、日本におけるバロック音楽に対する関心を飛躍的に高め、その後のバロック音楽ブームの火付け役となったと広く認識されています。中でも、1969年にロベルト・ミケルッチを独奏者に迎えて録音された3回目の『四季』は、日本のクラシック音楽史上において、アナログレコードとして初めて、そして現在も唯一のミリオンセラーを記録するという、驚異的な成功を収めました。1995年時点でのデータによれば、イ・ムジチ合奏団による『四季』の各録音盤は、日本国内で合計280万枚以上のセールスを記録しています。

彼らのレコーディング活動は熱心に行われており、スイスのラ・ショー＝ド＝フォンのスタジオを拠点としています。『四季』をはじめとするヴィヴァルディ作品に加え、アルカンジェロ・コレッリ、トマゾ・アルビノーニ、ジュゼッペ・トレッリといったイタリアの偉大な作曲家たちの作品、さらにはヨハン・ゼバスティアン・バッハ、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルなど、ドイツ・オーストリアの巨匠たちの作品も数多く録音しています。『四季』以外で特に人気のある録音としては、ヴィヴァルディの協奏曲集Op.3『調和の霊感』、バッハの『ブランデンブルク協奏曲』、モーツァルトの『ディヴェルティメント K. 136〜K. 138』などが挙げられます。

楽団の歴史を通じて、フェリックス・アーヨ、ロベルト・ミケルッチ、サルヴァトーレ・アッカルド、ピーナ・カルミレッリ、フェデリコ・アゴスティーニ、マリアーナ・シルブ、アントニオ・アンセルミ、マルコ・フィオリーニといった名ヴァイオリニストたちが歴代のコンサート・マスターを務めてきました。2019年にはアントニオ・アンセルミが急逝し、その後はマッシモ・スパダーノがゲスト・コンサートマスターとして日本のツアーに参加するなど、現在も楽団は活動を続けています。

半世紀以上にわたり、イ・ムジチ合奏団は指揮者を持たない独自のスタイルを貫き、バロック音楽を中心に、質の高い演奏と数多くの録音を通じて世界中の聴衆を魅了し続けています。彼らの音楽は、特に『四季』の演奏を通して、多くの人々にクラシック音楽の魅力、そしてバロック音楽の豊かな響きを伝える重要な役割を果たしてきました。

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