イ号一型甲無線誘導弾

イ号一型甲無線誘導弾について

概要

イ号一型甲無線誘導弾は、大日本帝国陸軍が開発した空対地誘導弾です。このミサイルは、ドイツのヘンシェルHs 293と同時期に開発が進められ、過酸化水素を推進剤として使用する点で共通していますが、その推進技術には異なる触媒が使用されていました。

歴史

誘導弾の研究は1930年代から行われ、日本でも小規模に進められていました。1944年、陸軍飛行第5戦隊が敵艦船への特攻を受け、特攻攻撃の代替手段として、第一陸軍航空技術研究所と第二陸軍航空技術研究所の技術者が親子飛行機構想を提案しました。この提案がイ号誘導弾の開発につながりました。

陸軍の計画では、800kgと300kgの爆弾を搭載できる二種類の誘導弾の実用化が決定され、それぞれイ号一型甲無線誘導弾とイ号一型乙無線誘導弾と名付けられました。開発は三菱と川崎がそれぞれ担当し、甲型は1944年7月に開発指示が出されました。試作一号機は同年10月に完成し、11月には10機が試作されましたが、ジャイロ安定装置の不具合や無線機器の調整困難により、実用化には至りませんでした。

性能

構造

イ号一型甲は、使い捨てを前提とした簡易な機体構造を持ち、高翼形式の木製の直線翼を備えています。胴体は金属製の骨組みにトタン板が張られており、前部に主翼、後部に双尾翼式の垂直尾翼と噴射ノズルがあります。誘導方式としては手動指令照準線一致が用いられ、三型液体ロケットが動力源として利用されます。ロケットエンジンは過酸化水素水と触媒の過マンガン酸ソーダ液を燃料とし、240kgの推力を75秒間発生させます。

制御と運用

誘導は母機から発信される誘導電波によって行われ、舵面の操作には圧搾空気が使用されますが、この空気は推進剤の圧送にも利用されるため、飛行の後半で舵面が効かなくなる問題がありました。

陸軍は無線誘導による空対艦ミサイルとしての運用を目指しましたが、イ号一型甲は主に四式重爆撃機への搭載が予定されており、母機は目標から距離を保ちながら誘導する必要がありました。この戦術にはリスクが伴い、艦隊の戦闘機に狙われる危険がありました。

結論

イ号一型甲無線誘導弾は、陸軍による空対地攻撃を実現するための重要な試みでしたが、技術的な課題や制御の難しさから実用化には至らず、その影響を味わった歴史的背景があることを忘れてはなりません。

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