イ族

イ族：中国南西部の多様な文化と歴史

イ族は、中国南西部に居住する少数民族の一つであり、人口は中国国内で7番目に多い民族です。その歴史は古く、古羌族の子孫とされ、チベット族、納西族、羌族とも祖先を共有すると言われています。古くから雲南省に多く居住し、かつては南詔王国を築いた烏蛮族がその先祖であると考えられています。

複雑な歴史と社会構造

イ族の歴史は、複雑で多様な民族移動や文化的融合を反映しています。南東チベットから四川省を経て雲南省に移住した彼らは、独自の文化を築き上げてきました。雲南北西部と四川省に住むイ族は、かつて複雑な奴隷制度を持っていました。人々は黒イと白イに二分され、白イと他民族は奴隷として扱われていましたが、白イは独自の土地を耕作する権利を持ち、時には自由を買い取ることも可能でした。黒イは主に四川省西部から雲南省の山岳地帯に南下した騎馬牧畜民族であり、白イはタイ系の稲作耕作民であると考えられています。

大涼山に住むイ族の伝承歌には、死後の魂が祖先の地へ帰る経路が記されており、その経路を辿ると長江上流、そして三星堆遺跡へと辿り着きます。このことから、三星堆遺跡を築いた集団の末裔であるとする説もあります。

多様な言語と文化

イ族には「ノス」「ニ」「ロロホ・ララポ」など、地域によって異なる多くの自称が存在します。言語はシナ・チベット語族チベット・ビルマ語派に属する彝語を使用し、ビルマ語と密接な関係を持っています。彝語は完全な開音節言語で、すべての音節が母音で終わるという特徴があります。母音は10個、子音は43個存在し、声調とアクセントも言語の重要な要素となっています。文法は日本語に似ており、主語＋目的語＋動詞の語順で構成されます。

彝語は大きく6つの大方言に分けられ、さらに下位方言や土語が存在するため、方言間の相互理解は容易ではありません。それぞれの地方言には、異なる特徴的な音韻や文法が存在します。

イ族の文化は、精霊信仰を基盤としており、ビモと呼ばれる司祭が儀式を執り行います。道教や仏教の影響も受けていますが、雲南省にはイスラム教を信仰する集団も存在します。

独特の生活様式と伝統

イ族の主な産業は農業と牧畜業であり、トウモロコシ、米、ジャガイモなどを栽培し、ヤギや豚などを飼育しています。伝統的な主食はツアンパという炒ったムギ粉を水で練ったもので、チベット族の食習慣と似ています。

結婚に関しては、かつてはイトコ婚（交差イトコ婚）が一般的でしたが、近年では変化しつつあります。葬式は伝統的に火葬でしたが、身分によって鳥葬や土葬が行われることもありました。

独自の祭りや伝統芸能

イ族には、独自の祭りや伝統芸能が数多く存在します。最大の祭りは火把節（旧暦6月24日～26日）で、豊作を祈る祝祭として行われます。歌垣や、独自のルールを持つ相撲、競馬などもイ族の文化を特徴づけています。

自治区域と著名人

イ族は、中国国内に多くの自治州や自治県、民族郷を有しています。また、イ族の出身者には、竜雲、盧漢、張沖といった軍人や政治家、吉狄馬加、曲煥章といった学者、莫西子詩、何潔といった芸術家などがいます。

参考文献

『中国少数民族事典』（東京堂出版　2001年）
『涼山彝族の言語と文字』（三重大学出版社　2011年）
『言語学大辞典第4巻　世界言語編（下‐2）』（三省堂　1992年）
日本における中国イ族の神話・民話に関する研究

番組

アンニの結婚　～中国雲南省・イ族の娘～ BS世界のドキュメンタリー - NHK
スーパープレミアム　秘境中国　謎の民　天頂に生きる～長江文明を築いた悲劇の民族～ - NHK
* 天空家族の７年　～中国・四川省　標高3000mの希望～

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