ウィリアム・グラハム・サムナー

ウィリアム・グラハム・サムナー（William Graham Sumner、1840年 10月30日 - 1910年4月12日）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけてアメリカ合衆国で活躍した、多才な才能を持つ学者です。イェール・カレッジ（現在のイェール大学）において長年教鞭を執り、その名物教授として広く知られていました。彼の学術的関心は非常に幅広く、アメリカ史、経済史、政治学、社会学、そして人類学といった、多岐にわたる分野で重要な著作を発表しています。

思想的には、彼は一貫して経済的自由放任主義（レッセフェール）を強く信奉し、自由市場経済の理念を熱心に擁護しました。同時に、国外への軍事介入や領土拡大に強く反対する反帝国主義の立場を取り、経済政策においては金本位制を支持するなど、その主張は明確かつ多岐にわたるものでした。

略歴

サムナーは1840年にニュージャージー州パターソンで生まれました。1863年にイェール・カレッジを卒業しており、在学中には学生秘密結社であるスカル・アンド・ボーンズに所属していました。卒業後、彼は一時留学を経験し、また牧師としても活動しましたが、1872年に母校であるイェール大学に新設された政治学・社会学の講座教授に就任しました。彼はこの職を長く務め、多くの学生に影響を与えました。また、アメリカ社会学会の第2代会長を1908年から1909年まで務め、学会の発展にも寄与しました。

貢献と活動

社会学者としてのサムナーの最も特筆すべき貢献は、社会現象を理解するための「伝播」（diffusion）、「風俗」（mores）、「エスノセントリズム」（ethnocentrism）といった重要な概念を体系的に発展させた点にあります。特に『フォークウェイズ』（Folkways）などの著作で展開された風俗研究は、社会の慣習や道徳が集団内で自然に形成されるプロセスを分析しました。彼は、この研究を通じて、政府が上から主導する形での社会改革は効果が薄い、あるいは無益であるという結論に至り、社会の自然な発展を重視する姿勢を示しました。

経済政策においては、彼は徹底した古典的自由主義者であり、自由貿易の実現を頑なに主張しました。当時のアメリカで人気を集めていた社会主義や共産主義には強く敵対し、特にユートピア小説『顧みれば』を出版したエドワード・ベラミーを名指しで批判しました。彼の信奉者たちは、生前から各地で「サムナー・クラブ」と呼ばれる集まりを結成し、彼の思想を広めました。

また、サムナーは当時の多くの古典的自由主義者と同様に、帝国主義的な拡張政策に強く反対しました。例えば、米西戦争には明確に反対の立場を取り、その後のフィリピンにおけるアメリカ軍の鎮圧活動にも異を唱えました。米西戦争後に結成されたアメリカ反帝国主義連盟では副会長を務め、「合衆国の征服」と題した講演では、帝国主義を激しく非難し、軍事力の肥大化に反対する小さな政府の理想を擁護しました。彼にとって、帝国主義とは新たな形の金権政治に他ならず、政府からの契約や補助金に依存する実業家たちが裏で操るものだと見なしました。

彼の初期の著作、特に1870年代のものは、イギリスの社会進化論者ハーバート・スペンサーの強い影響を受けており、社会ダーウィニズム的な傾向が見られます。しかし、1885年頃からはスペンサーの影響は徐々に薄れていきました。

サムナーのもとで学んだ人々の中には、後に著名な学者となった人物が多くいます。人類学者のアルバート・ケラー、経済学者のアーヴィング・フィッシャー、そして人類学的な知見を経済学に応用したソースティン・ヴェブレンなどがその代表例です。また、日本の専修大学の前身となる専修学校の創立者である相馬永胤（法学）と田尻稲次郎（経済学）も、イェール大学でサムナーから経済学や社会学を学んでいます。

主な著作

サムナーはその生涯で多くの著作を世に出しました。代表的なものとしては、社会学における主著である『フォークウェイズ』（Folkways, 1906年）や、彼の経済思想、政治思想を示す多くの論文や書籍があります。彼の死後も、弟子たちによって未発表の論文などが編纂され、出版されています。

ウィリアム・グラハム・サムナーは、その広範な研究領域と明確な思想的立場から、アメリカの学術史、特に社会学と政治経済思想において、今なお重要な人物として位置づけられています。

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