ウィリアム・コスグレイヴ

ウィリアム・トーマス・コスグレイヴ：アイルランド自由国の初代首相

ウィリアム・トーマス・コスグレイヴ（1880年6月6日 – 1965年11月16日）は、アイルランドの政治家であり、アイルランド自由国の初代行政評議会議長（首相）を務めました。独立運動家としての側面も持ち、激動の時代にアイルランドの舵取りを担いました。

独立運動家として

生い立ち

コスグレイヴは1880年、ダブリンでカトリック教徒の家庭に次男として生まれました。クリスチャン・ブラザーズで教育を受けた後、父の経営するパブ「ティペラリー」に関わりました。

政治の世界へ

1905年、コスグレイヴはアーサー・グリフィス率いるシン・フェイン党に参加し、政治活動を始めます。1909年からはアイルランド義勇軍にも所属し、1916年のイースター蜂起に参加。蜂起鎮圧後、死刑判決を受けますが、後に終身刑に減刑され、ウェールズの刑務所に収監されます。収監中の1917年には、キルケニー市議会議員に獄中当選を果たし、1919年に恩赦で釈放されました。同年、ルイザ・フラナガンと結婚しています。

英愛条約

コスグレイヴは、グリフィスやマイケル・コリンズらと共に英愛条約の交渉に臨みました。条約の承認を巡り、議会は紛糾。賛成64票、反対57票で可決されたものの、エイモン・デ・ヴァレラは暫定政府代表を辞任し、グリフィスが後を継ぎました。コリンズは臨時政府を組織し、コスグレイヴもその一員となりました。コリンズから政権を引き継いだコスグレイヴは、正式に政府を樹立するまでの間、首相の地位にありました。

行政評議会議長として

国内政策

1922年、42歳でアイルランド自由国の行政評議会議長（首相）に就任。閣僚の中では最年長でした。イギリスからの軍事援助を受けつつ、アイルランド国軍を用いて反条約派IRAの弾圧と内戦の早期終結を目指します。1922年10月には民間人の武器保有を禁じる法令を発令し、違反者を処刑。1923年6月には新党クマン・ナ・ゲールを結党し、シン・フェイン党から離脱しました。同年5月、残存反条約派IRAが降伏し、内戦は終結しました。

1924年には、イギリスと自由国政府の間で「自由国と北アイルランドの国境を再確定する」国境委員会の開催が合意されました。自由国はカトリック住民が多数を占める地域（ロンドンデリー県、アーマー県、ティロン県）の獲得を期待しましたが、北アイルランド当局がこれを拒否。結局、国境は変わらず、自由国政府は土地年賦金の帳消しと引き換えに、南北アイルランドの「国境」を認めることとなりました。

外交政策

コスグレイヴ政権は、イギリスの「自治領」としての地位を受け入れましたが、イギリスを信用することはありませんでした。政府は「独立国」であることを内外に示すため、1923年に国際連盟に加盟。多くの国々と外交官を交換し、国交を樹立しました。

英愛条約によって、他の自治領と比較してより多くの権限が自由国に与えられました。国王の名代としての総督の存在や忠誠の誓いなどの制限はあったものの、内政上の主権は完全に認められました。

経済政策

内戦終結後、コスグレイヴ政権は保守的な経済政策、低課税、均衡財政などを採用。自由国の通貨であるアイルランド・ポンドは、スターリング・ポンドとリンクしたままでした。コスグレイヴ自身は自由貿易を主張しましたが、中程度の関税は導入されました。

産業開発は、主に農業分野に重点が置かれました。新政府は自作農の育成と農地拡大のため、土地法を制定。農業分野の梃入れと農民の生活水準向上のため、アイルランド製糖会社と農業信用組合が設立されました。また、新規雇用の創出と産業開発に必要な電力供給のため、1927年にESBが設立され、シャノン川流域に複数のダムによる水力発電所が建設されました。

しかし、1930年代の世界恐慌はこれらの政策の効果を縮小させました。政府は不況対策として経済振興策を進めたものの、財政政策に失敗し、自由国経済は悪化の一途をたどりました。アイルランド随一の工業地域であるアルスター地方のほとんどが自由国から離脱したことも、アイルランド全体に悪影響を与えました。

野党の指導者として

1932年の総選挙で、フィアナ・フォイルがドイル・エアラン（下院）で第1党となり、コスグレイヴ率いるクマン・ナ・ゲールは敗北。コスグレイヴは行政評議会議長を辞任しました。

下野後、コスグレイヴは1933年にクマン・ナ・ゲールと他の2党とで合同してフィナ・ゲールを結成し、1944年まで同党の党首を務めました。

死

コスグレイヴは1965年11月16日に85歳で死去。ショーン・リーマス首相（フィアナ・フォイル所属）は、コスグレイヴの功績を顕彰する形で国葬を執り行いました。国葬には、主要政党の指導者や群衆の他、かつての政敵であったデ・ヴァレラ大統領も参列しました。コスグレイヴの遺体は、ゴールデン・ブリッジ墓地に埋葬されています。

ウィリアム・コスグレイヴの息子であるリーアム・コスグレイヴは、1944年にドイル・エアランの議員となり、1965年からフィナ・ゲールの党首、1973年から1977年まで首相を務めました。

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