ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール

ニュー・オーダー『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』：沈黙と分裂の狭間で生まれた傑作

2005年、イギリスのロックバンド、ニュー・オーダーは8枚目のスタジオアルバム『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』(Waiting for the Sirens' Call) を発表しました。前作『ゲット・レディー』以来4年ぶりとなる本作は、幾多の困難を乗り越えて世に出た、複雑な歴史を持つ作品と言えるでしょう。

アルバム発表までの道のりは決して平坦ではありませんでした。2001年の『ゲット・レディー』発表後、ベストアルバム『インターナショナル～ザ・グレイテスト・ヒッツ』をリリース。その後、2003年リリース予定とされていた新作は、度重なる延期に見舞われます。2002年末にはCD-BOXセット『レトロ』を発表するも、その後はバンドの活動は静止したかに見えました。

しかし、水面下ではレコーディングは続けられていました。当初はブライアン・イーノをプロデューサーに迎える予定でしたが、スケジュールの都合がつかず、最終的にはスティーヴン・ストリート、ジョン・レッキー、スチュワート・プライスの3名との共同プロデュース体制で制作が進められました。レコーディング中にはトーレ・ヨハンソンが参加したという噂もありましたが、その真偽は定かではありません。

また、本作からサポートメンバーだったフィル・カニンガムが正式にメンバーに加わり、バンドは再び4人体制となりました。このアルバムには、前作の流れを汲むロック色の強い曲からレゲエ調の楽曲、ダンサブルな曲まで、多様なサウンドが収録されています。

「クラフティー」、「ジェットストリーム」、「ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール」の3曲がシングルカットされましたが、アルバムリリース後もバンドを取り巻く状況は複雑さを増していきます。年末にはベストアルバム『シングルズ』を発表するも、その後、メンバー間、特にピーター・フックとバーナード・サムナーの対立が深まり、バンドは分裂の危機に瀕することになります。ピーター・フックがバンドの解散を明言する一方、バーナード・サムナーとスティーヴン・モリスは活動を継続する意向を示し、ニュー・オーダーの未来は不透明なままとなりました。

特筆すべきは、日本盤に収録された「クラフティー」の日本語バージョンです。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文氏による作詞は、バーナード・サムナーのアイデアがきっかけでした。同年フジ・ロック・フェスティバルで演奏された際には、歌詞が巨大スクリーンに表示され、会場全体で大合唱されるという感動的なシーンも演出されました。なお、日産セレナのCMソングに使用されたのは、オリジナルバージョンの「クラフティー」でした。

『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』は、ニュー・オーダーの音楽性とバンドを取り巻く複雑な状況を凝縮した、重要な作品と言えるでしょう。多様なサウンドと、バンドの未来を暗示するような陰鬱な雰囲気は、リスナーに強い印象を与えます。このアルバムは、バンドの輝かしい歴史のひとつの到達点でありながらも、同時に終わりへの序章でもあったと言えるのかもしれません。

収録曲（日本国内盤）

1. フーズ・ジョー？ (Who's Joe?)
2. ヘイ・ナウ・ホワット・ユー・ドゥーイング (Hey Now What You Doing)
3. ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール (Waiting for the Sirens' Call)
4. クラフティー (Krafty)
5. アイ・トールド・ユー・ソー (I Told You So)
6. モーニング・ナイト・アンド・デイ (Morning Night And Day)
7. ドラキュラズ・キャッスル (Dracula's Castle)
8. ジェットストリーム (Jetstream)
9. ギルト・イズ・ア・ユースレス・エモーション (Guilt Is A Useless Emotion)
10. ターン (Turn)
11. ワーキング・オーヴァータイム (Working Overtime)
12. クラフティー（日本語ヴァージョン） (Krafty (Japanese Version))
13. クラフティー（ザ・グリマーズ・12インチ・エクステンデッド） (Krafty (The Glimmers Twelve Inch Extended))
14. クラフティー（フォンズ・リアリティー・リミックス） (Krafty (Phones Reality Remix))

制作

作詞・作曲・編曲：ニュー・オーダー
プロデューサー：ニュー・オーダー、スティーヴン・ストリート、ジョン・レッキー、スチュワート・プライス
* カバー・アート・ディレクション：ピーター・サヴィル

もう一度検索