ウェスト・テキサス・インターミディエイト

ウェスト・テキサス・インターミディエート（WTI）とは

ウェスト・テキサス・インターミディエート（West Texas Intermediate、略称: WTI）は、アメリカ合衆国南部のテキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される原油の総称です。特定の油田の原油を指すものではなく、この地域で産出される原油全体を指します。アメリカ国内の原油生産量の約6%、世界の原油生産量の1～2%を占めています。WTIは硫黄分が少なく、ガソリンや石油製品の製造に適しており、API度39.6の軽質油です。

WTI先物取引

WTI先物は、ニューヨーク・マーカンタイル取引所（NYMEX）で「NYMEX Light Sweet Crude」（軽質スイート原油）として取引されています。1983年5月に上場されて以来、NYMEXの主要な取引商品としての地位を確立しています。WTIの先物取引所がニューヨークにあるため、日本では「ニューヨーク原油先物」や「NY原油先物」とも呼ばれます。

取引方法は以下の2種類があります。

先物取引: 将来の特定の期日に特定の商品を、あらかじめ決められた価格で売買する契約。
オプション取引: 特定の期日までに特定の商品を、あらかじめ決められた価格で売買する権利を売買する契約。

WTI価格は、この取引価格によって決定され、世界の原油価格の最も有力な指標の一つとされています。実際のWTIの産出量は1日あたり100万バレルに満たないのに対し、WTI先物の1日あたり取引量は1億バレルを超えています。そのため、価格変動、特に価格上昇が起きた場合、世界経済に大きな影響を与える可能性があります。

また、取引量に比べて産出量はごくわずかなため、実際には他の原油をWTIと同質になるようにブレンドしたもので受け渡しが行われます。

原油輸出解禁と受け渡し

アメリカは、1973年の第一次オイルショックをきっかけに、1975年に米国産原油の輸出を禁止していましたが、2015年12月18日に40年ぶりに解禁しました。WTIの現物はオクラホマ州カッシングにある集油所で受け渡されますが、内陸部で港湾施設がないため、タンカーによる引き取りはできません。

WTI価格の変動要因と性質

WTIの価格は基本的にアメリカ国内の原油現物市場を反映したものです。かつては、受け渡し場所であるカッシングの地理的条件から原油の流通量に限界があり、価格が偏ることもありましたが、パイプラインの整備や輸入原油の導入によって、国際価格を反映できるようになりました。

しかし、アメリカの価格を大きく反映する傾向は変わらず、暖房用燃料の消費量を左右する北米の冬の天候が暖かくなると価格が下がり、寒くなると価格が上がる傾向があります。また、メキシコ湾岸にハリケーンの被害が発生すると、石油精製施設の稼働率が低下するため、価格が上昇します。

もちろん、原油市場全体に見られる、原油生産国の政情不安による価格変動も起こります。また、世界全体の資金の流れにも影響を受け、近年では金融市場や株式市場の低迷や不安定化によって、WTIなどの商品市場に資金が流入する傾向があります。

NYMEXでのWTIの取引開始当初は、専門の投資家による取引が中心でしたが、近年は一般の個人投資家やヘッジファンド、インターネットを通じた取引が増加しています。取引の多くはスプレッド取引やアウトライトといった手法が用いられますが、価格変動が大きい時には投機的な取引が増える傾向があります。

新興国の需要増加と投機的取引

2000年代前半からは、中国やインドなどの新興国の経済成長に伴い、石油製品の需要が増加し、価格が高騰しました。また、価格が初めて70ドル/バレルを超えた2005年頃からは、投機的な取引による価格暴騰が指摘されるようになりました。価格暴騰の原因としては、高騰によって増えたオイルマネーの流入や、バイオエタノールとの関連性などが考えられます。

近年のWTI価格

2010年以降、アメリカのカナダ重質原油輸入量が増えたため、WTI価格は低く抑えられるようになり、北海ブレント先物価格の方が世界の石油相場をより正確に反映しているとの見方もあります。国際的な指標としてはブレント原油が用いられ、アメリカの原油価格の指標としてはWTIが位置づけられています（2014年時点）。

価格変動は、世界の経済活動と原油生産量に左右されますが、2020年には新型コロナウイルス感染症の流行により、極端な経済活動の低下と人の移動の減少が発生しました。これにより、WTI原油先物価格は2020年1月の50ドル/バレル付近から、同年3月には20ドル/バレル付近まで下落し、さらに4月20日には、オクラホマ州カッシングの原油受け渡し場所の貯蔵施設が満杯になるという予想から、5月渡しの先物価格が史上初のマイナスを記録しました。これはWTIの取引の事情によるもので、同日の北海ブレントの先物決済値は25ドル/バレル台となっています。

WTI先物価格の推移

NYMEX Light Sweet Crude先物取引の通常取引終値価格の毎年の推移です。価格はすべて1バレルあたりで、基準通貨はアメリカ合衆国ドルです。

外部リンク

Light Sweet Crude Oil（英語） - ニューヨーク・マーカンタイル取引所

もう一度検索