ウェトラニオ

フラウィウス・ウェトラニオ：4世紀ローマ帝国の皇帝

フラウィウス・ウェトラニウスは、4世紀のローマ帝国において重要な役割を果たした皇帝の一人です。彼の生涯は、社会階層の壁を乗り越えた華々しい上昇と、権力闘争の渦中で下された苦渋の決断、そして穏やかな晩年という、ドラマチックな三幕劇を思わせます。

出自と軍歴

ウェトラニウスは、3世紀後半、モエシア属州の比較的未開拓地域で、低い身分から生まれました。幼少期や青年期の詳細は不明ですが、早い段階で軍隊に入隊し、読み書きはできませんでしたが、並外れた能力で急速に昇進していったことが分かっています。彼はコンスタンス1世の下でイリュリア地方の統治を任され、その手腕で高い評価を得ていました。350年1月、コンスタンス1世がマグネンティウスに暗殺されると、事態は急転します。

皇帝への道

コンスタンス1世の姉、コンスタンティナは、ウェトラニウスに皇帝の位を打診しました。この決断の背景には、マグネンティウスという簒奪者から身を守るための策略、あるいはコンスタンティヌス朝の血筋を守るための政治的思惑があったと考えられます。当時、コンスタンティヌス1世の息子であるコンスタンティウス2世はペルシアとの戦争に忙殺されており、帝国の西側では権力闘争が激化していました。コンスタンティナは、ウェトラニウスが自身の家族と帝国を守り得ると考えたのかもしれません。

ウェトラニウスは帝位を受け入れ、アウグストゥス（正帝）の称号を用いた貨幣が発行されました。これは、彼が長期にわたる統治を企図していたことを示唆しています。しかし、彼の皇帝としての地位は長くは続きませんでした。

権力闘争と退位

ウェトラニウスは当初、コンスタンティウス2世から反対されませんでしたが、マグネンティウスと同盟関係を結びました。彼らはコンスタンティウス2世に対して共同戦線を築き、帝国の支配権を要求しました。しかしコンスタンティウス2世は、この申し出を拒否します。

その後、コンスタンティウス2世はウェトラニウスとの和解を模索し、ウェトラニウスもこれを受け入れました。両者は一時的に協力関係を築き、マグネンティウスへの共同作戦を展開するに至ります。しかし、この協力関係は長くは続きませんでした。

セルディカにおいて、コンスタンティウス2世は、巧みな演説で軍の支持を取り付け、ウェトラニウスを帝位から引きずり降ろしました。350年12月25日、ウェトラニウスは帝位の象徴を脱ぎ捨て、コンスタンティウス2世に服従しました。コンスタンティウス2世は寛大な処遇でウェトラニウスを赦し、彼の命は助かりました。

晩年と死

その後、ウェトラニウスは平和的に引退し、ビテュニア属州のプルサ・アド・オリンプムで年金暮らしを送りました。彼は、友人であるコンスタンティウス2世に「平和は私的な地位でしか得られない」という言葉を残したと伝えられています。ウェトラニウスは、帝位を退いた後も6年間生き、穏やかな日々を送ったとされています。

歴史的評価

ウェトラニウスの生涯は、4世紀ローマ帝国の政治的混乱と、権力闘争の激しさ、そして個人の運命が時代の波に翻弄される様子を象徴しています。彼は、低い身分から皇帝の座に上り詰めたものの、権力争いの犠牲となり、最後は平和な余生を送るという、ドラマチックな生涯を送った人物でした。彼の物語は、歴史家の研究対象として、今後も注目を集め続けることでしょう。

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