モエシア

モエシア：古代ローマ属州の興亡

モエシアは、現在のセルビアとブルガリアに位置した古代ローマの属州です。その領域は、南はバルカン山脈、西はドリナ川、北はドナウ川、東は黒海に囲まれていました。この地には、トラキア人やイリュリア人などの民族が暮らしており、モエシアという地名も、トラキア人のモエシ族に由来します。

ローマの支配

紀元前75年、共和政ローマがモエシア地方に遠征し、部族を制圧しました。その後、アウグストゥス帝の時代にモエシア属州として確立され、コンスル格の総督が統治しました。モエシアはドナウ川を挟んで国境に面していたため、多くの駐屯地や要塞が築かれました。

87年頃、モエシアはドミティアヌス帝によって、モエシア・スペリオル（上モエシア）とモエシア・インフェリオル（下モエシア）に分割されました。それぞれの州都は、ウィミナキウムとトミスに置かれました。

異民族の侵入と属州の変遷

3世紀以降、モエシアはカルピ族やゴート族の襲来に悩まされました。250年頃にはゴート族が侵略に成功し、皇帝が戦死する事態も発生しました。アウレリアヌス帝は、モエシアの安全を確保するためにダキア属州をゴート族に譲渡し、住民をドナウ川南岸に移住させました。

ディオクレティアヌス帝の時代には、モエシア・スペリオルはモエシア・プリマに改名され、モエシア・インフェリオルはモエシア・セクンダとスキュティア・ミノルに分割されました。

ゴート族の定住とスラヴ・ブルガール人の到来

4世紀後半、フン族に追われたゴート族がドナウ川を渡ってモエシアに侵入し、ローマ帝国との間で戦いが起こりました。ハドリアノポリスの戦いでローマ軍が敗北すると、モエシアはゴート族の支配下に入りました。その後、7世紀にはスラヴ人とブルガール人が侵入し、この地にセルビア王国とブルガリア王国を築きました。

モエシアの主要都市

モエシアには、ウィミナキウム、シンギドゥヌム、トミスなど、多くの重要な都市がありました。これらの都市は、ローマ帝国の支配下で発展し、地域の文化や経済の中心地となりました。

モエシア・スペリオルの主要都市

ウィミナキウム（Viminacium、現コストラク、州都）
シンギドゥヌム（Singidunum、現ベオグラード）
レメシアナ（Remesiana、現ベラ・パランカ）
ボノニア（Bononia、現ヴィディン）
ラティアリア（Ratiaria、現アルカール）

モエシア・インフェリオルの主要都市

トミス（Tomis、現コンスタンツァ、州都）：詩人オウディウスが没した地
オデッスス（Odessus、現ヴァルナ）
オエスクス（Oescus、現ギゲン）
* ノウァエ（Novae、現スヴィシュトフ近郊）：東ゴート王国の創始者テオドリック大王の主要拠点

まとめ

モエシアは、ローマ帝国の属州として、また異民族の侵入や国家の変遷を経て、多様な歴史を刻んできた地域です。その歴史は、現在のセルビアとブルガリアの文化や社会に深く根付いています。

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