ウォルシュ兄弟

ウォルシュ兄弟：幕末から明治日本の近代化を支えたアメリカ人実業家

ウォルシュ兄弟は、19世紀中頃、幕末から明治時代にかけて日本において成功を収めたアメリカ人実業家兄弟です。彼らの設立したウォルシュ商会は、日本で初めて成功したアメリカ企業の一つとして知られています。

生い立ちと来日

ニューヨーク州ヨンカーズでアイルランド移民の子として生まれた4人の兄弟は、アジアでの事業成功を夢見ていました。1854年に長崎居留地が開設されると、1855年頃、兄弟揃って日本へ渡り、長崎で貿易業と保険業を始めました。

ウォルシュ商会と多様な事業展開

ウォルシュ商会は、長崎で幕末の志士たちとも取引を行い、坂本龍馬の亀山社中が購入した「太極丸」の売買にも関与していました。1859年、兄トーマスと弟ジョンの2人は、医師のジョージ・ホールと共に、樟脳、金、絹、茶などを扱うウォルシュ・ホール商会を横浜で設立しました。横浜居留地にもいち早く進出し、「亜米一」と呼ばれるほどでした。

その後、横浜港開港を機に、商会はさらに発展を遂げます。1862年にはジョージ・ホールが帰国したため、後任にフランシス・ホールを迎え入れました。また、上海港揚子保険会社の日本代理店も務め、海上保険事業にも参入しました。

事業は多岐に渡り、三菱の創業者である岩崎弥太郎や、後の三井物産の創業者である益田孝とも緊密な関係を築き、多くの仕事を共にしました。高田商会の前身であるベア商会にも関わっており、当時の日本経済発展に大きく貢献しました。

1868年には神戸外国人居留地が開設されると、そこでも営業を開始し、1871年から1872年には兄弟は神戸に移住しました。長兄の妻とその兄も1874年頃から神戸で暮らすようになり、神戸を拠点とした事業活動が本格化していきました。

ウォルシュ商会は、日本へは武器や軍艦を、日本からは生糸や食品などを輸出入する貿易事業を展開しました。さらに、神戸では木綿のボロを製紙原料として欧米に輸出する事業に着手し、大きな収益を上げました。しかし、藍染めの木綿に含まれる石灰による発火事故が多発したことから、兄弟は木綿をパルプ状にして輸出する革新的な手法を開発しました。

神戸製紙所の設立と事業の転換

製紙事業を本格化させるため、兄弟は1875年に弟のロバートをアメリカに研修に送り、翌1876年には、イギリス元公使オルコックとの共同出資で神戸外国人居留地近くに製紙工場「神戸製紙所」を建設しました。アメリカから最新の製紙機械を輸入し、本格的な紙の製造を開始しました。しかし、輸入製品の不当廉売に苦しみ経営は困難を極めましたが、長崎時代からの親交があった岩崎弥太郎からの資金援助により事業を継続しました。

事業の中心が製紙へと移っていく中で、1897年8月、弟のジョンが神戸で急死しました。この出来事により、兄トーマスは事業への情熱を失い、神戸製紙所を岩崎久弥に譲渡した後、日本を去りスイスに移住しました。

横浜への本社移転とその後

商会の取締役を引き継いだアーサー・オーティス・ゲイは、1899年に本社を神戸から横浜に移転しました。神戸外国人居留地にあったウォルシュ・ホール商会の建物は、開港当時の典型的な建築物として知られていました。神戸市立外国人墓地にはジョンの墓が残されています。そして、神戸製紙所は現在、三菱製紙としてその歴史を受け継いでいます。

家族と関係者

ジョンは日本人女性と結婚し、娘をもうけました。ウォルシュ商会には、益田孝や、ロバート・W・アーウィンなどが勤めており、多くの日本人と深い関係を築き、日本の近代化に大きく貢献したと言えるでしょう。一方、伊藤八兵衛とは訴訟沙汰にまで発展したエピソードも残っています。

まとめ

ウォルシュ兄弟は、貿易、保険、製紙業など多様な事業を展開し、日本経済の発展に多大な貢献を果たしました。三菱や三井といった日本の財閥との深い繋がりを持ち、多くの日本人と協力して事業を成功に導いた彼らの活動は、日米関係史においても重要な役割を担っています。彼らの功績は、現在も三菱製紙として受け継がれ、日本の近代化の歴史に深く刻まれています。

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