伊藤八兵衛

伊藤八兵衛とは

伊藤八兵衛（いとう はちべえ）は、1816年（文化12年）に生まれ、1878年（明治11年）に没した、幕末から明治初期にかけて活躍した豪商です。武蔵国川越（現在の埼玉県川越市）の農家に生まれ、幼名は内田善蔵。後に江戸に出て、質商「伊勢屋」に奉公しました。そこで才覚を現し、同家の養子となり、伊藤姓を名乗るようになりました。その後、水戸藩の御用達として、金融や物資の取引で巨万の富を築きました。最盛期には「江戸一の大富豪」と謳われましたが、晩年は為替投機での失敗により没落しました。

波乱に満ちた生涯

若年期と商人としての頭角

八兵衛は、実弟の米三郎（後の画家・淡島椿岳）とともに江戸へ出て、質商「伊勢屋長兵衛」に奉公しました。伊勢屋は「伊勢長」という名で知られる江戸でも有数の質商であり、八兵衛はそこで頭角を現しました。その才能を認められ、「京橋十人衆」と称された幕府御用商人である伊藤家の婿養子となり、名を八兵衛と改めました。八兵衛は、その才覚と努力によって、伊藤家を一大富豪へと押し上げました。

幕末の活躍

八兵衛は本所に油会所を設け、水戸藩の名義で金穀などの運上を扱いました。その成功は幕末に頂点に達し、江戸一の大富豪として名を馳せました。1864年（元治元年）には、水戸藩の天狗党が挙兵した際、後楽園に呼び出され、小判5万両の賦金を命じられましたが、即座に二分金3万両を差し出すなど、その財力を示しました。明治維新の際にも、三井が3万両を献金したのに対し、八兵衛は5万両を献上しました。また、70万両もの古金銀を地中に埋蔵したという逸話も残っています。その名は広く知れ渡り、明治時代の雑誌「太陽」の創刊号には「伊藤八兵衛伝」が掲載されました。

明治維新後の苦難と晩年

明治維新後、八兵衛は水戸藩の財政難を救うために、天塩国（現在の北海道の一部）の開拓資金としてアメリカの商会から多額の借入を行いました。しかし、天塩国が水戸藩から明治政府の管轄となったことで、借入金の返済に苦しむことになりました。この問題解決のため、渋沢栄一が尽力し、元金の減額と利子の値下を実現しましたが、八兵衛自身は、横浜居留地のアメリカ商人との為替取引で大きな損失を被り、訴訟を起こしました。しかし、裁判では敗訴し、多額の負債を抱えることになりました。この裁判での敗北は、八兵衛の財産を失わせるだけでなく、彼の晩年を苦難に満ちたものとしました。また、1874年（明治7年）には、乗合馬車会社「千里軒」を開業し、東京浅草雷門から新橋駅間に日本初の二階建て馬車を走らせましたが、1880年（明治13年）には廃業しました。失意の中、1878年（明治11年）に失意のうちに亡くなりました。

親族と家族

八兵衛は、多くの家族に恵まれました。妻の今（いま）を始め、複数人の妾がいました。子供も多く、長男の八平を筆頭に、次男の時蔵（登喜造）、多くの娘たちがいました。娘の一人である兼子は、後に実業家・渋沢栄一の後妻となり、八兵衛の名は後世にまで知られることとなりました。また、他の娘たちもそれぞれ有力な家系に嫁ぎ、その血筋は広範囲に広がりました。八兵衛の娘たちは、当時の社会情勢や家族の状況を反映した人生を送りました。長女の亀や二女の美津は夭逝しましたが、三女の久美は外山彌太郎に、四女の楽は今澤會藏に嫁ぎました。五女の兼子は、一度離婚した後に渋沢栄一と再婚。六女のおきは高梨孝右衛門に、七女の清は佐々木和亮に、八女の信は皆川四郎に嫁ぎました。

まとめ

伊藤八兵衛は、幕末から明治初期にかけて、その才覚と努力で巨万の富を築き上げた豪商でした。しかし、時代の波に翻弄され、晩年は不遇なものでした。彼が残した功績やその波乱に満ちた生涯は、幕末から明治にかけての日本の社会情勢を語る上で重要な要素となっています。また、彼の娘たちが、後の時代に大きな影響を与えたことも忘れてはならないでしょう。

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