ウォルター・パラット

サー・ウォルター・パラット

サー・ウォルター・パラット（Sir Walter Parratt KCVO, 1841年2月10日生 - 1924年3月27日没）は、ヴィクトリア朝からエドワード朝、そしてジョージ5世の時代にかけて活躍した、イングランドを代表するオルガニスト、作曲家、そして卓越した音楽教育者でした。

生涯と経歴

パラットはウェスト・ヨークシャー州のハダースフィールドで生まれました。彼の父もオルガニストであったことから、幼い頃からパイプオルガンに親しみ、早くも少年時代にはオルガニストとしての職に就いています。幼少期からその才能は抜きんでており、わずか10歳という若さで、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの記念碑的作品である「平均律クラヴィーア曲集」全曲を、譜面を見ることなく暗譜で演奏したという驚異的な逸話が残されています。

彼のキャリアは、地元の教会でのオルガニスト職から始まりました。1854年から1861年にかけては、ハダースフィールドのセント・ポール教会でジョン・ステイナーの後任を務めています。その後、ダドリー伯爵の私設オルガニスト、ウィガン教区教会のオルガニストなどを経て、1872年にはオックスフォード大学モードリン・カレッジのオルガニストに就任し、ここで約10年間活躍しました。そして、1882年からはウィンザー城内のセント・ジョージ・チャペルのオルガニストとなり、以降、生涯にわたってこの重要な職を務め続けました。1908年には、ヒューバート・パリーの後を引き継ぎ、オックスフォード大学の音楽科教授に任命されました。また、オルガン演奏家のための権威ある組織である王立オルガニスト大学の学長も歴任しています。

パラットは同時代のオルガン教育において指導的な役割を果たし、多くの優れたオルガニストを育成しました。彼の薫陶を受けた弟子たちの多くが、イギリス国内の主要な教会のオルガニストや音楽関連の重要なポストに就き、英国の音楽界に貢献しています。

多様な才能

音楽の分野における偉大な功績に加え、パラットは熱心なチェスプレーヤーとしても知られていました。その集中力と多才ぶりを示すエピソードとして、複雑なオルガン曲を初見で演奏しながら、同時にチェスの対局を行うことができたと伝えられています。彼はオックスフォード大学のチェスクラブで数か月間部長を務めたほか、ケンブリッジ大学との対抗戦においては、選抜された8名の代表選手のキャプテンを2年間にわたって務めるなど、チェスにおいてもリーダーシップを発揮しています。

名誉と記念

パラットの功績は広く認められ、多くの栄典に浴しました。1892年にはナイトの称号を授与され、サーの称号を得ています。翌1893年には、ヴィクトリア女王陛下の音楽師範（Master of the Queen's Music）に任命され、その後、エドワード7世、そしてジョージ5世と、三代の国王の音楽指導にあたりました。これは、当時の英国音楽界における彼の地位の高さを示すものです。

また、ロイヤル・ヴィクトリア勲章も授与されており、メンバー（MVO, 1901年）、コマンダー（CVO, 1917年）、そしてナイト・コマンダー（KVCO, 1921年）と、段階的に高位の勲章を受けました。

1924年にパラットが世を去った後、彼の偉業を偲んで記念碑が建立されました。一つは彼の故郷であるハダースフィールドの教区教会の敷地に、もう一つは長年オルガニストを務めたウィンザー城のセント・ジョージ・チャペルに建てられています。セント・ジョージ・チャペルの記念碑は、ジョージ6世が埋葬されているジョージ6世メモリアル・チャペルの入口の隣という、由緒ある場所に位置しています。

サー・ウォルター・パラットは、オルガニスト、作曲家、教育者、そして王室との深いつながりを通じて、19世紀後半から20世紀初頭にかけての英国音楽界に大きな足跡を残しました。

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