ウジェーヌ・ルーシェ

ウジェーヌ・ルーシェ

ウジェーヌ・ルーシェ（Eugène Rouché、1832年8月18日 - 1910年8月19日）は、19世紀から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの著名な数学者です。解析学、幾何学、線型代数学など幅広い分野で業績を残しました。

経歴

1832年に生まれたルーシェは、1852年にパリの名門教育機関であるエコール・ポリテクニークに入学し、数学の道を歩み始めました。卒業後、彼は教育者としてのキャリアを積みます。リセ・シャルルマーニュやエコール・サントラル（École Centrale des Arts et Manufactures, 現在のエコール・サントラル・パリ）で数学の教授を務め、多くの学生を指導しました。また、母校であるエコール・ポリテクニークでは試験官も務め、入学を志す若者たちの評価にあたりました。

主な功績

ウジェーヌ・ルーシェの名を数学史に不朽のものとしているのは、主に二つの重要な定理です。一つは複素解析の分野におけるルーシェの定理です。これは、ある領域の境界上で二つの正則関数の一方がもう一方よりも絶対値が大きければ、その領域内部で両関数が持つ零点の個数は等しいという定理であり、複素解析における根の存在とその個数を調べる上で非常に強力なツールとなっています。この定理は、1862年にエコール・ポリテクニークの学術誌『Journal de l'École polytechnique』で発表されました。

もう一つは、線型代数学におけるルーシェ＝カペリの定理です（あるいはルーシェの定理と呼ばれることもあります）。この定理は、線型方程式系の解の存在と個数に関する条件を与えるもので、拡大係数行列の階数と係数行列の階数の比較によって、解が一意に存在するか、無限に存在するか、あるいは存在しないかを判定することができます。この定理は、教育や応用においても広く用いられています。

これらの卓越した数学的貢献が認められ、ルーシェは1896年にフランス科学アカデミーの会員に選出されました。

家族

ウジェーヌ・ルーシェの息子であるジャック・ルーシェは、父親とは異なる分野で名を馳せました。彼は数学者ではなく、芸術のパトロンとして活動し、1914年から1944年までの30年間にわたりパリ国立オペラの総裁を務めました。

主な著作

ルーシェは教育者として多数の数学教科書や専門書を執筆しました。彼の著作の一部を以下に挙げます。

Sur les intégrales communes à plusieurs problèmes de mécanique relatifs au mouvement d'un point sur une surface. (1858年)
Le systeme du monde et le calendrier. (1867年)
Eléments de géométrie descriptive. (1875年)
シャルル・ド・コンベルーズとの共著によるTraité de géométrie (1865年以降)
Éléments de statique graphique. (1889年)
Analyse infinitésimale, à l'usage des ingénieurs. Calcul différentiel. (1900-1902年)

これらの著作は、当時のフランスにおける数学教育に大きな影響を与えました。特に、コンベルーズとの共著による幾何学の教科書は、後に日本にも紹介され、邦訳が出版されています。

邦訳書籍

日本においては、ルーシェとコンベルーズによる幾何学の著作が明治・大正期に複数回翻訳・出版されています。これらは日本の近代数学教育における重要な教材となりました。

樺正董訳『普通平面幾何学教科書』（三省堂、1896年）
樺正董訳『立体幾何学教科書』（三省堂、1897年）
小倉金之助訳『初等幾何学 第1巻 平面之部』（山海堂書店、1913年）
小倉金之助訳『初等幾何學 第2卷 空間之部』（山海堂書店、1915年）

ウジェーヌ・ルーシェは、その理論的な貢献と教育者としての活動を通じて、数学の発展に大きく寄与した人物であり、彼の名前に冠された定理は、現代数学においても基本的な概念として学習されています。

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