ウズベキスタンの人名

ウズベキスタンの人名について

ウズベキスタンの人名は、その歴史的背景と多様な文化の影響を色濃く反映しています。現代のウズベキスタンでは、人名は通常、個人名、ミドルネーム、家族名（姓）の3つの部分で構成されています。しかし、日常生活においては、公式文書や特定の状況を除き、個人名とミドルネームはイニシャルで表記され、家族名のみが正式名称で用いられることが一般的です。

歴史的背景

ウズベキスタンの地は、歴史的にペルシア人、アラブ人、テュルク系民族、ウズベク人、ロシア人など、様々な民族が交錯してきた場所です。そのため、人名も時代とともに変化し、特にロシアとソビエト連邦の支配下にあった過去100年間で、ロシア化の影響を受け、現在の3つの部位で人名を表記する形式が定着しました。古代から現代まで使用されている個人名は、ウズベク人の人名学に基づいて名付けられることが多いですが、父親の名前や出生地の名前が用いられることもあります。

アラブ系の名前

8世紀にアラブ人がウズベキスタンを征服した際、イスラム教が広まり、多くのアラブ、ペルシア、ギリシャ（イスカンダル）、ヘブライ起源の名前が使われるようになりました。イブラヒム、ユースフ、イスマイール、イスハーク、ヤクブ、ユーヌスなどがその代表例です。イスラム教の影響は、テュルク系民族の名前よりも優勢になりましたが、テュルク系民族の名前が完全に廃れたわけではありません。20世紀初頭でも、ウズベク人の約5％がテュルク系民族由来の名前を使用していたとされています。イスラム教に由来する名前の多くは、宗教的な概念やクルアーンの登場人物に基づいており、ムハンマドやファーティマなどが広く使われています。現在でも、ムハンマドカリームやテュルスンムラードといった名前が一般的です。

また、名前の先頭に「アブド」（アラビア語で「奴隷」の意）を付け、その後にアッラーフの99の美名を加えた「神の下僕」を表す名前もよく見られます。アブドゥラシード、アブドゥラヒーム、アブドゥッラー、アブドゥラフマンなどがその例です。さらに、名前の語尾に宗教や信仰を表す「-din」、またはアッラーフを表す「-ulla」が付いた名前も一般的です。ヌルディン、サドルディン、サイフディン、イナヤトゥッラ、ファトフッラなどが挙げられます。これらの名前は、元々は高官などの身分の高い人々が使用していたものでした。

宗教的な名前に加え、カリーム（寛容）、マジド（高貴）、ウミード（希望）など、特別な意味を持つ名前も使用されます。また、アダラト（公正）やムハバート（愛）など、高尚な考えや感情を表す名前も用いられます。

ウズベク系の名前

ウズベク人固有の名前も様々な種類があり、その背景には文化的、歴史的な意味合いが込められています。

1. 強さ、勇気、美しさを願う名前

バティル（ヘーラクレース）、アルスラン（獅子）、プラト（鋼）、ティムール（鉄）、クリチュ（剣）、クドラト（力）、グルチェヘラ（花の容姿）、アルティングル（黄金の花）、ナフィーサ（優雅）、ディルバル（魅力的）、パリザダ（妖精）などがあります。これらの名前は、子供の将来に対する親の願いが込められています。

2. 英雄や伝説、歴史上の人物に由来する名前

ルスタム、ユースフ、ファルハド、タヒル、シリン、ズフラ、イスカンダル（アレクサンドロス3世に由来）、ウルグベクなどが挙げられます。これらの名前は、歴史上の偉人や物語の登場人物にあやかって名付けられることが多いです。

3. 植物、動物、鳥、自然に由来する名前

アルマ（リンゴ）、チナラ（プラタナス）、ウルマン（森）、サリムサク（ニンニク）、ブリ（オオカミ）などが該当します。自然界のものにちなんだ名前は、素朴で親しみやすい印象を与えます。

4. 家庭用品に由来する名前

バルタ（斧）、テシャ（包丁）、キリチュ（剣）、ケトマン（鍬）などがあります。これらの名前は、日常生活に密接な道具を名前に取り入れることで、子供が健康に育つようにとの願いが込められています。

5. 家族関係に由来する名前

ジヤンバイ（姪）、トゥガイ（外叔父）、ババジャン（祖父）、アナハン（母）などがあります。これらの名前は、家族の絆を大切にする文化を表しています。

6. 場所名、民族名に由来する名前

アルタイ、カラタイ、タシュケントブイ、キルギズブイ、カザクブイ、バルラス、ナイマンなどが該当します。これらの名前は、その土地や民族への愛着を示しています。

3から6で挙げた名前は、現代ではあまり使われなくなっています。

ウズベク人の間では、生まれたときに髪の毛がある子供に「ウルス」という名前をつけることが多いですが、これは悪霊を避けるための習慣でもあります。また、子供を早く亡くした家族は、次の子供に「ウルマス（不死）」、「トゥルスン（残存）」、「トゥルガン（残存）」、「トゥフタ（停止）」といった名前を付けて、再び悲劇が起こらないようにと願います。さらに、女の子が多い家庭で男の子を望む場合、「ウギライ（息子）」、「ウルジャン（女の子の後の男の子）」、「キズラルバス（女の子は十分）」という名前を予めつける習慣もありました。

子供の身体的な特徴によって名付ける習慣もあります。例えば、眼の色や痣などにちなんで、ハルダル、ハル、ハルムラド、ハルベクなどの名前が付けられます。痣は吉兆とされており、子供の明るい将来を願って名付けられます。また、ザクロを痣の比喩として用いたナルマト、ナルバイ、ナルクルなどの名前も使われます。金髪や赤髪の子供は比較的珍しいため、アクバイ（白）、サリベク（黄色）といった名前で特徴を表します。さらに、指や足の指が多い場合は、アルティカリ、アルティグル、ズィヤド、ズィヤダなど、「追加」を意味する言葉に由来する名前が付けられます。病弱な子供には、「アチル（解放）」という名前が付けられ、病気からの解放を願います。

その他にも、ブリ（オオカミ）は歯が生えて生まれた子供に付けられ、臍の緒が切れて生まれた場合は、バルタ（斧）やテシャ（包丁）が、女性が自宅で出産した場合にはウラク（月）という名前が付けられることがあります。これらの名前は、子供の健康を願う意味合いも含まれています。

その他の名前の由来

自然現象や事物、状態、職業、数字に由来する名前も存在しますが、異なる意図で名付けられることもあります。例えば、男性の名前では、バイ（王子）、ダスト（友情）、ヤル（仲間）、ザファル（勝利）、ベルディ（与えられた）、タシュ（石）、ズムラド（エメラルド）、スフラーブ（ルビー）、フィルーザ（トルコ石）、ドゥルダナ（真珠）、ザリナ（金装飾）、クムシュ（銀）、ケルディ（来る）、ジャン（魂）などがあります。女性の名前では、グル（花）、ローラ（チューリップ）、ニルファル（蓮）、アイ（月）、アク（白）、ヌル（光）、アイム（美）、ブヴィ（祖母）、ニサ（温和）などが挙げられます。

これらの名前の多くは、国内で広く使われています。農家の子供には、バイ、ベク、ミルザ、スルタンなどの名前が付けられることがあり、過去の貴族にあやかって名前を付ける場合は、一般人であることを示すために語尾を付けないのが原則です。現代以前には、地域によって名前の特徴がありましたが、現在はその特徴は失われつつあります。

ウズベキスタンの人名には、歴史、宗教、文化、家族の絆、自然への敬意など、多くの要素が複雑に絡み合っています。これらの名前は、それぞれの家族の物語や願いを反映し、ウズベキスタンの豊かな文化遺産を伝えています。



参考文献

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