ウズベク人

ウズベク人：中央アジアの多様な顔

ウズベク人は、中央アジア最大のテュルク系民族です。ウズベキスタン共和国を民族国家として持ち、中国の新疆ウイグル自治区やアフガニスタン北部にも大規模なコミュニティが存在します。そのルーツは古く、西トルキスタン南部からフェルガナ地方にかけての地域に広がり、モンゴロイドとコーカソイドの特徴を併せ持つ容貌をしています。

ウズベクという名称の起源

ウズベク（O‘zbek/Ўзбек）という名称は、テュルク語で「自分（öz）」と「君主（beg）」を組み合わせた言葉で、「自身が主」を意味するとされています。この名称が民族名として定着したのは、ジョチ・ウルスの繁栄期に、支配下の遊牧民をイスラム教に改宗させたウズベク・ハンに由来する説が有力です。15世紀頃には、中央アジア南部のチャガタイ・トルコ人が北部の遊牧民を「ウズベクたち」と呼んでいました。この時代のウズベクは、現代のウズベク民族とは区別して「遊牧ウズベク」と呼ばれることもあります。

歴史：遊牧民から民族国家へ

16世紀初頭、シャイバーニー朝がティムール朝を滅ぼしてマー・ワラー・アンナフル周辺に定住したことで、ウズベクは西トルキスタン南部に住むテュルク系遊牧民を指すようになりました。その後、遊牧民の定住化が進み、テュルク語とペルシア語のバイリンガルが都市部で一般的になり、既存の定住民との差異は薄れていきました。

ブハラ・ハン国、ヒヴァ・ハン国、コーカンド・ハン国の3ハン国は、ウズベクの定住化社会を代表する政治勢力でした。しかし、19世紀後半にはロシア帝国によって併合もしくは保護国化され、ロシアは当地のムスリム定住民を、言語に関わらず「サルト」と呼びました。これらのハン国は、男系がチンギス・ハンの子孫、女系が預言者ムハンマドの子孫という共通点を持っていました（コーカンド・ハン国は例外）。

20世紀に入ると、マー・ワラー・アンナフルのサルトの中から民族運動が興り、テュルク系の一派が西トルキスタン南部のテュルク系定住民と遊牧民を包括する民族名称として「ウズベク」を提唱しました。ソ連時代には、ソ連の民族境界確定政策によって現代のウズベク民族が公式に定義されました。しかし、この政策は、タジク語を母語とする住民などもウズベク民族に含むなど、恣意的な面が指摘されています。そのため、現代ウズベク民族は、歴史的な経緯から、ティムール朝を滅ぼしたウズベクを名乗りながら、ティムールを民族最大の英雄として称えるという、一見矛盾した状況にあります。

中国におけるウズベク人

中国の新疆ウイグル自治区には、ウズベク人が少数民族として暮らしています。モリ・カザフ自治県や大南溝ウズベク郷などがその例です。

遺伝子：多様なルーツ

ウズベク人の遺伝子は、複雑な歴史を反映しています。イラン系民族、テュルク系民族、モンゴル系民族の混血が遺伝子分析の結果からも明らかになっており、研究結果によってはその位置づけが異なっています。ある研究ではイラン系民族とモンゴル系民族の中間にあるとされ、別の研究では中央アジアの他のテュルク系民族に近いとされています。Y染色体のハプログループも、地域や研究によってC2やR1aなど異なる結果が報告されています。

結論

ウズベク人は、複雑な歴史的過程を経て形成された中央アジア最大の民族です。遊牧民から定住民への移行、ハン国時代、ロシア帝国による支配、そしてソ連時代の民族政策など、様々な出来事がウズベク人のアイデンティティを形作ってきました。現代ウズベク人は、多様な民族的背景と歴史的経験を持つ人々の集まりであり、その多様性はウズベキスタンの豊かな文化を反映しています。今後もウズベク人の歴史と文化に関する研究が発展していくことが期待されます。

もう一度検索