ウプランド

ウプランド：中世ヨーロッパの外套

ウプランドは、14世紀後半から15世紀半ばにかけてヨーロッパで広く着用された外套の一種です。男女を問わず愛用され、その形状や装飾は時代とともに変化しました。ここでは、ウプランドの歴史、デザイン、装飾について詳しく解説します。

誕生と変遷

ウプランドは、14世紀半ばにイタリアから西ヨーロッパに伝わったコタルディという短い丈の衣服が流行したことがきっかけで登場しました。当時のヨーロッパでは、現代のようなズボンはなく、ホーズとブルフという下着を着用していました。そのため、短い衣服を着ていると陰部が露出する危険性がありました。

1359年頃、ウプランドは男子の室内着として誕生しました。初期のウプランドは、踝丈で、やや詰まった襟とすぼまった袖を持つゆったりとした外套でした。シャルル6世の宮廷で人気を博し、様々な工夫が凝らされるようになります。丈は床に引きずるものから腿丈まで、袖はすぼまったものから床に引きずるほどの漏斗型のものまで登場しました。しかし、どのウプランドにも顎の辺りまで覆う高い襟がついていました。

貴婦人たちもシャルル6世を真似てウプランドを着用しました。女性用のウプランドも男性用と同様に高い襟がついており、たいていは漏斗型の袖でした。

15世紀になると、流行の発信地はフランス宮廷からブルゴーニュへと移ります。フィリップ善良公の宮廷では、豪華な絹織物を惜しげもなく用い、前身頃を開いて下に着た服の美しい刺繍を見せたり、折り返し襟をつけるなど、より洗練された着こなしが流行しました。また、幅広い袖やダッギングといった装飾は下火となりました。フィリップ善良公は、父であるジャン無怖公の死後、ほとんどの肖像画で黒いウプランドを身につけた姿で描かれており、ブルゴーニュでは宮廷の正装に黒ビロードが用いられるようになりました。これは、西ヨーロッパで黒がフォーマルウェアに用いられた最初の例とされています。

装飾

ウプランドの装飾として特徴的なのは、ダッギングという切り込み装飾です。これは、袖口や裾に鋏で波型、城壁型、帆立型などに切れ込みを入れるもので、シャルル6世の時代に大流行しました。ウプランドだけでなく、女性のかぶり物や騎士の陣羽織にも用いられました。

刺繍も非常に人気がありました。1392年にアミアン会議でブルゴーニュのフィリップ豪胆公とランカスターのジョン・オブ・ゴーントが臨席した際、ブルゴーニュ公は胸にルビーとサファイアを飾った口輪をはめた熊の刺繍を、ランカスター公は左袖にルビーとサファイアと真珠を組み合わせた22本のバラの刺繍を施していました。フランスの王室会計録には、シャルル6世の紋章であるエニシダの枝と孔雀の刺繍への支払いの記録が残っています。これらの刺繍は、宝石や金銀糸で装飾された非常に美しいものであったと考えられています。また、騎士たちは標語や頭文字などの刺繍を好んで行っていました。標語は聖書などから取られることが多かったのですが、他の騎士と同じ標語を選んで争いの種になることもありました。

参考文献

丹野郁 編『西洋服飾史 増訂版』東京堂出版 ISBN 4-490-20367-5
千村典生『ファッションの歴史』鎌倉書房 ISBN 4-308-00547-7
菅原珠子『絵画・文芸に見るヨーロッパ服飾史』朝倉書店 ISBN 4-254-62008-X
深井晃子監修『カラー版世界服飾史』美術出版社 ISBN 4-568-40042-2
平井紀子『装いのアーカイブス』日外選書 ISBN 978-4-8169-2103-2
ジョン・ピーコック『西洋コスチューム大全』ISBN 978-4-7661-0802-6
オーギュスト・ラシネ『服装史 中世編Ⅰ』マール社 ISBN 4-8373-0719-1
マックス・フォン・ベーン『モードの生活文化史』河出書房新社 ISBN 4-309-22175-0

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