ウマイヤ朝のガリア侵攻

ウマイヤ朝のガリア侵攻：西ヨーロッパへの波及と終焉

8世紀初頭、ウマイヤ朝はイベリア半島を征服し、その勢いを駆ってガリア（現在のフランス）への侵攻を開始しました。この侵攻は、西ヨーロッパの歴史に大きな影響を与えることになります。

セプティマニア征服と北方への進撃

716年頃、ウマイヤ朝の圧力により、西ゴート王国の版図はセプティマニア（現在のラングドック＝ルシヨン地域圏）まで縮小していました。717年、ウマイヤ軍はピレネー山脈を越え、セプティマニアとアクィタニアへの侵攻を開始します。

719年、総督サムフ・ハウラーニーはバルセロナとナルボンヌを占領し、ナルボンヌをイスラーム勢力下のセプティマニアの首都としました。721年にはトゥールーズの戦いでアクィタニア公ウードに敗北しますが、セプティマニアのゴート人がウマイヤ朝に降伏したため、ウマイヤ朝の支配はさらに拡大しました。

725年、サムフの後継者アンバサはカルカソンヌを包囲し、ニームなどセプティマニアの都市を次々と占領。さらに北上を続け、オータンにまで到達しました。しかし、相次ぐ戦乱により、多くの難民がピレネー山脈を越えてアクィタニアやプロヴァンスに逃れました。

アクィタニア侵攻とトゥール・ポワティエ間の戦い

731年、ベルベル人のムヌーサがウマイヤ朝から独立し、アクィタニア公ウードと同盟を結びましたが、ウマイヤ朝によって鎮圧されました。732年、総督アブドゥッラフマーン・ガーフィキーはアクィタニアに侵攻し、ボルドーを占領。トゥールのサン＝マルタン大聖堂を略奪するため、北上を開始しました。

アクィタニア公ウードはフランク王国の宮宰カール・マルテルに救援を要請。732年、トゥール・ポワティエ間の戦いにおいて、カール・マルテル率いるフランク王国軍はウマイヤ軍を破り、アブドゥッラフマーンは戦死しました。この戦いは、ウマイヤ朝のガリア遠征における転換点とされています。

カール・マルテルのプロヴァンス遠征とセプティマニア喪失

トゥール・ポワティエ間の戦いの後も、ウマイヤ朝は南ガリアに勢力を維持しました。カール・マルテルはプロヴァンス遠征を行い、アヴィニョンを占領・破壊するなど、ウマイヤ朝方の勢力を一掃しました。

752年、カール・マルテルの息子ピピン3世はセプティマニア遠征を開始。セプティマニアのゴート人がフランク王国側に寝返ったこともあり、759年にナルボンヌを降伏させました。これにより、ガリアにおけるイスラーム勢力は完全に駆逐されました。

後世への影響

ウマイヤ朝のガリア侵攻は、西ヨーロッパの政治・文化に大きな影響を与えました。フランク王国の勢力拡大を促し、後のカロリング朝の成立につながりました。また、いくつかのアラビア語の語彙が現代のプロヴァンス語に残るなど、文化的な影響も見られます。

ピピン3世の息子カール大帝はピレネー山脈以南に侵攻し、イスラム圏との緩衝地帯としてスペイン辺境領を設置しました。この辺境領は、後にキリスト教勢力がイスラーム勢力を南へ押し返すレコンキスタの起点の一つとなりました。

ウマイヤ朝のガリア侵攻は、短期間で終焉を迎えたものの、その影響は西ヨーロッパの歴史に深く刻まれています。

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