ウラジーミル・マヤコフスキー

ウラジーミル・マヤコフスキー：革命とロマンス、そして謎の死

ウラジーミル・マヤコフスキー (1893-1930) は、20世紀初頭のロシア革命期を代表する詩人であり、ロシア未来派の中心的存在でした。グルジアの寒村で生まれ、モスクワでマルクス主義思想に触れ、ロシア社会民主労働党、そしてボリシェヴィキに加わった経験は、彼の詩作に大きな影響を与えました。革命家としての活動は逮捕歴にも繋がりますが、投獄中から詩作を始め、バイロンやシェイクスピアといった巨匠から影響を受けながら独自の詩風を確立していきました。

若きマヤコフスキーは、ダヴィド・ブルリュークらと出会い、立体未来派を形成します。モスクワ絵画・彫刻・建築学校への入学も、彼の芸術家としての道を切り開く上で重要なステップとなりました。しかし、政治活動が原因で退学を余儀なくされるなど、波瀾万丈な青年期を過ごします。1912年の未来派文集『社会の趣味への平手打ち』への参加は、彼をロシア・アヴァンギャルドの中心に押し上げ、政治的なメッセージを含む詩作が、学校退学の原因にもなりました。

第一次世界大戦では兵役を志願するも断られ、軍の自動車学校に勤務。1917年の十月革命を目の当たりにし、赤軍兵士を鼓舞する「左翼行進曲」を発表するなど、革命運動を積極的に支持しました。彼の詩は、従来のロシア詩とは異なるリズムと、日常語や俗語を取り入れた大胆な表現で注目を集め、鮮烈な抒情と革新的な言語実験を融合させたスタイルを確立しました。

革命後も、マヤコフスキーは精力的に創作活動を続けました。風刺劇『ミステリヤ・ブッフ』の大成功、共産党プロパガンダポスターへの参加、評論や映画シナリオ執筆など、多方面で才能を発揮しました。1923年には芸術左翼戦線(レフ)を結成し、ソ連初期の芸術界をリードする存在となりました。

私生活では、女優リーリャ・ブリークとの複雑な関係が知られています。リーリャは既婚者でしたが、夫である劇作家オシップ・ブリークもマヤコフスキーの才能を認め、3人で同棲するという当時としては異例な関係を築きました。この同棲生活は、フェミニズム思想が浸透していた当時のソ連社会において、新しいモラルの象徴として受け止められた側面もあります。しかし、マヤコフスキーはリーリャとの恋愛関係に終止符を打ちながらも、その後も終生、ブリーク夫妻と生活を共にすることになります。

1920年代半ばには、西欧やアメリカへの外遊も経験し、ニューヨークではモデルのエリー・ジョーンズとの間に娘エレーナをもうけます。パリではタチアーナ・ヤーコヴレワと真剣な交際をしますが、結婚には至りませんでした。帰国後は女優ヴェロニカ・ポロンスカヤと親しくなり、晩年の生活に大きな影響を与えます。

しかし、ブリーク夫妻にはチェーカー（ソ連秘密警察）での活動歴があり、彼らの自宅は一種の文学サロンとして機能しながらも、OGPU（ソ連秘密警察）員の出入りもあったとされています。マヤコフスキー自身、ブリーク夫妻の過去を知っていたとされ、政府から批判の対象となっていたにも関わらず、秘密警察に監視されている状況にあったと推測されています。

1929年にはロシア・プロレタリア作家協会（ラップ）から激しい批判を受け、翌1930年2月にはラップへの加入を表明するも、精神状態は悪化していました。4月12日には遺書を残し、14日朝、銃弾により死亡。死因は自殺と発表されましたが、この死をめぐっては、いまだに多くの謎が残されています。

彼の死後、マヤコフスキーに対する評価は大きく変動しました。最初は称賛が相次ぎましたが、スターリンは後年、マヤコフスキーを「革命詩人」として顕彰し、モスクワの広場に彼の名を冠しました。しかし、ソ連崩壊後は、再び評価が揺れ動き、広場名も元に戻されました。死因については、グラスノスチの時代以降、自殺説だけでなく、謀殺説も議論されています。

マヤコフスキーの死は、政治的・社会的な背景と、複雑な人間関係が絡み合った、未解明な事件として、今日まで多くの研究者や作家を魅了し続けています。彼の詩作は、革命期ロシアの激動と彼の内面世界を反映したものであり、20世紀ロシア文学史に不可欠な存在となっています。彼の生涯と作品は、現代においても、新たな解釈や考察の対象として、私たちに多くの問いを投げかけています。

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