ウリチ族 (東スラヴ系)

ウリチ族：ドニエストル川流域に生きた東スラヴの民

ウリチ族は、8世紀から10世紀にかけて、現在のウクライナにあたるドニエストル川下流、南ブーフ川沿い、そして黒海沿岸地域に居住していた東スラヴ民族の一つの部族です。年代記には、ウリチ、ウルチ、ウグリチ、ウルチチ、リュチチ、リュチャネなど、さまざまな名前で記録されています。

居住地と勢力範囲

『原初年代記』には、ウリチ族と近隣のチヴェルツィ族がドニエストル川のほとりに住み、ドナウ川にまで接していたことが記されています。彼らの勢力は非常に大きく、ドニエストル川沿いに黒海まで広がっていたとされています。ウリチ族の中心都市はペレセチェニでした。

キエフ大公国との戦いと従属

10世紀の前半、ウリチ族は独立を維持するためにキエフ大公国と戦いました。しかし、最終的にはキエフの支配を受け入れ、その領域はキエフ大公国の一部となりました。この戦いは、ウリチ族の歴史における重要な転換点となりました。

ペチェネグ族の侵攻と民族の消滅

ウリチ族の領域は、その後、北から侵入してきた遊牧民族であるペチェネグ族の圧迫を受けました。領域を接していたチヴェルツィ族と共に、西方のヴォルィニャーネ族と融合したと考えられています。970年代以降の年代記にはウリチ族に関する記述が見られなくなり、ペチェネグ族によって滅ぼされ、消滅したと考えられています。

ウリチ族の歴史は、東スラヴ民族の形成過程における一挿話であり、キエフ大公国の勢力拡大、遊牧民族の侵入といった当時の社会情勢を反映しています。

参考文献

中村喜和訳 『ロシア中世物語集』、筑摩書房、1985年
和田春樹編 『ロシア史』（世界各国史22）、山川出版社、2002年
* 伊東孝之他編　『ポーランド・ウクライナ・バルト史』　山川出版社、1998年

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