エウアンドロス

エウアンドロス：ローマ建国に貢献したアルカディアの英雄

エウアンドロスは、ローマ神話に登場する重要な文化英雄です。ギリシアのアルカディア地方出身とされ、オリュンポス十二神や文明の礎となる知識（法律やアルファベットなど）をイタリア半島にもたらしたと伝えられています。トロイア戦争の約60年前、彼はイタリア半島へ渡り、後にローマとなる都市パランティウムを建設しました。ラテン語ではエウアンデルと呼ばれ、ルペルカーリア祭の創始者としても知られています。

ヘルクレスとエウアンドロス

エウアンドロスは、ローマのフォルム・ボアリウムにあったヘルクレスの大祭壇を建立したとされています。ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』では、アイネイアース一行がパランティウムを訪れた際、エウアンドロスとその民が巨人カークスを倒したヘルクレスを崇拝している様子が描かれています。ウェルギリウスは、この祭壇の位置を当時のローマ人が理解できるよう詳細に記述しており、ヘルクレスがカディスからゲーリュオーンの牛を連れ戻った帰途、エウアンドロスの歓待を受け、カークスとの戦いで英雄として祭壇が建立されたと説明しています。この祭壇は、紀元64年のローマ大火で消失しました。

パランティウム建設とエウアンドロスの出自

ウェルギリウスによると、エウアンドロスは神々の使いであるメルクリウスとカルメンタの子であり、アルカディアで最も賢明な人物でした。彼はトロイア戦争以前にパランティウムを建設し、周辺の原住民をそこに集めました。都市の名前は、彼の息子パラスに由来するとウェルギリウスは記していますが、他の歴史家パウサニアスやディオニュシオスは、エウアンドロスの出身地がパランティウムであり、その名を新たな都市につけたのだと主張しています。

アイネイアースとの関わりと神格化

エウアンドロスは、トロイア戦争以前にアイネイアースの父アンキーセースと面識があり、その縁からアイネイアースがトゥルヌス率いる原住民と戦う際には、彼を支援しました。『アエネーイス』第12巻では、この協力関係が重要な役割を果たしています。

エウアンドロスは死後に神格化され、アヴェンティーノの丘に祭壇が建立されました。彼の息子パラスは若くして亡くなったため、エウアンドロスの血筋は途絶えたと考えられますが、ファビウス氏族はエウアンドロスの子孫を自称していました。

エウアンドロスの歴史的解釈

エウアンドロスに関する記述は、ウェルギリウスの『アエネーイス』を始めとする古代ローマの文献に拠っており、歴史的事実と伝説が混在している可能性があります。しかし、彼に関する神話や物語は、ローマ建国神話の重要な一部として、ローマ人のアイデンティティ形成に大きく貢献したと言えるでしょう。アルカディアからの移住者であるエウアンドロスを祖先とするという主張は、ローマの多様な起源を示唆し、ローマの文化的多様性を反映しているとも言えます。エウアンドロスの物語は、ローマ建国という歴史的事実に神話的な解釈を加え、ローマの起源と発展を彩る重要な要素として、後世に語り継がれてきました。彼の物語は、古代ローマの宗教観、社会構造、そして歴史認識を理解する上で欠かせない存在です。また、彼の存在は、ギリシア文化とイタリア先住民文化の融合という、ローマ文化形成における重要な側面を象徴しているとも考えられます。

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