アンキーセース

アンキーセース

アンキーセース（古希: Ἀγχίσης, Anchīsēs）は、ギリシア神話に登場する人物で、トロイア王家の血を引く王子です。ラテン語ではアンキーセスと表記され、長母音を省略してアンキセスとも呼ばれます。

概要

アンキーセースは、トロイア王イーロスの娘テミステーと、アッサラコスの子カピュスの間に生まれました。一説には、アッサラコスの子とも、カピュスの兄弟であるラーオコオーンの兄弟とも言われています。彼は、愛と美の女神アプロディーテーに愛されたことで特に知られており、彼女との間に英雄アイネイアースとリュロスをもうけました。また、ヒッポダメイアという娘もいたとされています。

神話

アプロディーテーとの恋

神話によると、ゼウスはアプロディーテーが神々を人間と結びつけていたことに不満を持ち、彼女が自慢しないように、アプロディーテーにアンキーセースへの恋を吹き込みました。アプロディーテーは、イーデー山で暮らすアンキーセースを見て恋に落ち、キュプロスに戻って身なりを整えた後、再びアンキーセースを訪れました。アンキーセースは彼女の美しさに驚き、女神ではないかと疑いましたが、アプロディーテーは神の姿を隠し、プリュギア王オトレウスの娘であると偽りました。彼女はヘルメース神がアンキーセースの妻とするために自分を連れてきたと伝え、アンキーセースは愛欲に逆らえず、アプロディーテーと一夜を共にしました。

翌朝、アプロディーテーは神の姿に戻り、アンキーセースを起こしましたが、彼はその姿を見て恐怖しました。当時、女神と交わった男は精を失うと信じられていたため、彼は精を失った身体で生き続けることを恐れ、アプロディーテーに懇願しました。アプロディーテーは彼をなだめ、彼の子を身ごもったこと、その子を5年間ニュムペーに育てさせた後に連れてくること、そしてこのことをみだりに話すとゼウスの怒りを買うだろうと伝えました。

トロイアの脱出

しかし、アンキーセースは酒に酔った際、アプロディーテーに愛されたことを話してしまい、ゼウスの雷に打たれて身体が不自由になってしまいました。別説では、ハチに目を刺されて失明したとも言われています。

トロイア戦争でイーリオス城が陥落した際、アンキーセースは当初、アイネイアースに従わず城内に残ろうとしました。しかし、雷鳴とともに天に流星が現れ、逃げるべき方向を示したため、ついに諦め、アイネイアースに背負われて脱出しました。その後、トロイアを出航してイタリアを目指し、シチリア島で亡くなったと伝えられています。

系図

イーロス
テミステー（娘）
アンキーセース
アイネイアース（息子）
リュロス（息子）
ヒッポダメイア（娘）

脚注

参考文献

アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫（1953年）
ウェルギリウス『アエネーイス』岡道男・高橋宏幸訳、京都大学学術出版会（2001年）
ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫（2005年）
ホメロス『イリアス（上・下）』松平千秋訳、岩波文庫（1992年）
ホメーロス『ホメーロスの諸神讃歌』沓掛良彦訳、ちくま学芸文庫（2004年）
高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』、岩波書店（1960年）
カール・ケレーニイ『ギリシアの神話　神々の時代』植田兼義訳、中公文庫（1985年）

関連項目

アンキセス (小惑星)

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