ゲーリュオーン

ゲーリュオーンの神話

ゲーリュオーン（古希: Γηρυών, Gēryōn）は、ギリシア神話の中で特異な存在として描かれる怪物であり、その母はクリューサーオール、父はカリロエーで、エキドナの兄弟ともされています。彼は異なる表記で知られ、ギリシア語の文献では「ゲーリュオネウス」や「ゲーリュオネース」として広く認識されています。また、エトルリア語では「ケルン」と呼ばれ、日本語では「ゲリュオン」や「ゲリュオネス」としても言及されています。

外見の特徴

ゲーリュオーンの最も際立った特徴は、その身体の形状です。彼は三頭を持つか、あるいは三つの身体が一つに結合している怪物として説明されます。古代の文献によれば、ステーシコロスはゲーリュオーンがさらに6本の腕と脚、そして翼を持つ怪物であると述べています。一方、アポロドーロスは、ゲーリュオーンの身体が三人の男が腹で結合しているものであり、脇腹と太ももからはそれぞれ三つに分かれた形をしていると説明しています。このビジュアルは古代ギリシャの芸術作品にも多く描かれています。

ゲーリュオーンは重装歩兵のように鎧を身に着け、盾と槍で武装している様が描写されるのに対し、彼のライバルであるヘーラクレースはライオンの皮をまとい、武器は棍棒や弓矢、剣という質素な装いです。この相対的な描写は、様々な美術作品において示され、観る者に強い印象を与えました。

牛の群れとヘーラクレース

ゲーリュオーンは、海に囲まれたエリュテイア島で牛の群れを管理していました。彼の牛飼いはエウリュティオーンと呼ばれ、牧犬には双頭のオルトロスが付き従っていました。ヘーラクレースは12の功業の一環として、この牛の群れを奪う任務を与えられ、エリュテイアへ向かいました。道中、ヘーラクレースはオルトロスと遭遇し、棍棒で犬を倒した後、エウリュティオーンも殺害します。この一連の出来事を耳にしたゲーリュオーンは、牛を追っていたヘーラクレースに挑戦しましたが、矢に射られて亡くなります。

死後と伝説

ゲーリュオーンが死んだ後、彼は冥界の住人となったとされています。古代の文献によると、彼の神託所が存在し、時には人々がここで運勢を占ったと伝えられています。パウサニアースの記述によると、リューディア地方にある丘から巨大な人骨が見つかり、これはゲーリュオーンの骨だと評判になったという逸話が残されています。

物語の変容

ゲーリュオーンの物語は、ヘーシオドスが著したものが最古とされていますが、その後の文学でも基本要素が引き継がれていきます。前6世紀には、ステーシコロスによって「ゲリュオネイス」という抒情詩が作られ、ゲーリュオーンは高貴な存在として描かれました。一方で、ヘーラクレースは彼を侵略者と見なし、暴力的な人物と表現されています。このような視点の違いは、後の詩人やアーティストにも影響を与えました。

ダンテとゲーリュオーン

ダンテ・アリギエーリの『神曲』においても、ゲーリュオーン（イタリア語ではジェーリオン）が登場しますが、彼の姿は伝説とは異なり、蛇のような体を持つ怪物として描かれ、虚偽の象徴となっています。ダンテは、ゲーリュオーンの二重性を通じて、欺瞞の罪を象徴する存在として扱っています。

学術的な視点

学者の間では、ゲーリュオーンは本来大地または冥界の精霊であったとする解釈がされています。彼の存在が冥界の牛飼いと結びつくこと、及び神託を行う役割を担っていた点がその主な理由とされます。彼の神話は、古代ギリシャの神々や英雄たちとの複雑な関係を反映しています。

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