エウリュクレイア

エウリュクレイア（Εὐρύκλεια）

古代ギリシア神話に伝えられる女性名。この名を冠する人物としては、主にイタケーの王オデュッセウスに仕えた乳母と、テーバイ王ラーイオスの前妻とされる人物の二人が知られている。

オデュッセウス王家の乳母

オデュッセウスの乳母エウリュクレイアは、ペルセーノルの子オプースの娘として生まれた。彼女は幼いオデュッセウスの養育係となり、長じてはその息子テーレマコスをも慈しみ育てた。イタケー王宮においては、ペーネロペーの乳母エウリュノメーと共に、女中たちの筆頭として家事を統率する重職を担っていた。

若き日に、オデュッセウスの父である老王ラーエルテースは、彼女を牛二十頭という価値で買い取り、自身の館に迎え入れた。ラーエルテースはエウリュクレイアの勤勉さと人柄を高く評価し、妻であるアンティクレイアに対するのと同様に丁重に扱ったという。しかし、妻の感情を慮り、彼女に男女の関係を求めることは決してなかったと伝えられている。

オデュッセウスがトロイア戦争から長らく帰還せず、多くの求婚者たちが王宮に居座ってその財産を食い潰していた絶望的な時期、エウリュクレイアもまた、愛する主はすでにこの世にいないものと諦めていた。そうした中、若きテーレマコスが父の消息を求めて遠方のピュロスやスパルタへの旅を決意したと聞くと、彼女は彼の身を案じ、その危険な試みに激しく反対した。しかし、父への思慕に燃えるテーレマコスの固い決意に説き伏せられ、最終的には彼を送り出すことを承諾し、ペーネロペーには息子の旅立ちを秘密にしておくことを誓った。

長い放浪の末、ついにイタケーへ帰還したオデュッセウスは、乞食の老人に変装して王宮に潜入した。その正体を知る者はごくわずかであった。ある夜、ペーネロペーは乞食姿の客人に敬意を示し、疲れを癒すための足洗いを命じた。この役目を任されたのが、他ならぬ乳母エウリュクレイアであった。彼女が慣れた手つきでオデュッセウスの足を洗っていた時、ふとその腿にある古い傷跡に触れた。それは、かつてオデュッセウスがまだ少年の頃、祖父アウトリュコスの家で猪狩りをした際に負った独特の傷であった。その傷を見た瞬間、エウリュクレイアは眼前の老人が紛れもないオデュッセウス本人であることに気づき、驚愕のあまり手から器を取り落としそうになった。思わず「オデュッセウス様、私の愛しい子！」と叫びそうになるが、主人は素早く彼女の口元を抑え、秘密を守るよう厳かに命じた。エウリュクレイアは、感涙にむせびながらも、忠実にその秘密を守り通した。

後にオデュッセウスとテーレマコス、そして少数の忠実な家臣たちが力を合わせ、傲慢な求婚者たちをことごとく討ち果たした後、エウリュクレイアは王に請われ、求婚者たちと密通していた不貞な女中たちの名を告げた。彼女たちの裏切りは許されることなく、テーレマコスらの手によって粛清された。

エウリュクレイアは、叙事詩『オデュッセイア』において、主人公のアイデンティティを知る最初の人物であり、王家に生涯を捧げた忠実な僕として、物語の重要な局面に関わる存在である。

オイディプースの母

別の伝承によれば、テーバイの王ラーイオスの最初の妻の名もエウリュクレイアであったとされている。この説に従うと、彼女がオイディプースの実母にあたることになる。一般的にオイディプースの母とされるエピカステー（あるいはイオカステー）は、この説ではラーイオスの後妻であり、夫の死後にその息子と知らずにオイディプースと結婚した人物として位置づけられている。

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