エクソマーズ

エクソマーズ計画

エクソマーズ（ExoMars）計画は、火星における生命の可能性を探ることを主眼とする、欧州宇宙機関（ESA）が中心となって推進する大型宇宙探査プロジェクトです。ExoMarsという名称は「Exobiology on Mars」（火星における宇宙生物学）に由来しており、その名の通り、火星に生命が存在した、あるいは現在も存在している可能性を示す痕跡を探し出すことを目指しています。現在はこの計画を、ESAがロシア国営宇宙企業ロスコスモスと協力して実施しています。

計画では、複数種類の探査機を開発し、これらを二度の打ち上げ機会に分けて火星へ送る構想で進められており、打ち上げにはロシアの大型ロケットであるプロトンMが用いられる計画です。第1弾として、2016年に周回衛星トレース・ガス・オービター（TGO）が打ち上げられ、2017年に火星周回軌道への投入に成功しました。しかし、TGOに搭載されていた着陸技術実証機スキアパレッリEDMは、火星への降下中に通信が途絶し、残念ながら失敗に終わっています。第2弾では、ロシアが製造する着陸機カザチョクが、ESAが開発した探査車ロザリンド・フランクリンを搭載し、火星表面を目指します。当初2020年の打ち上げが予定されていましたが、開発遅れなどから2022年へと延期されました。

計画の目的

エクソマーズ計画には、科学的および技術的な目的が設定されています。

科学的な目的：

過去または現在の火星生命の痕跡を見つけ出すこと。
地表から比較的浅い範囲における、水分や土壌成分の分布を詳細に調べること。
火星表面の環境を調査し、将来の有人探査における潜在的な危険要因を特定すること。
火星の進化や生命居住の可能性をより深く理解するため、惑星の表面と内部を研究すること。
将来の火星サンプルリターンミッションに向けた段階的な技術および知見を獲得すること。

技術的な目的：

火星への大型ペイロードを正確に着陸させる技術を開発・実証すること。
火星表面環境に適した太陽光発電システムを開発すること。
紫外線や放射線の影響を受けにくい地下2メートルまでの深さから、ドリルを用いてサンプルを採取する技術を確立すること。
ロボット探査車を用いた、他の惑星表面での探査手法を開発・実証すること。

計画の歩み

エクソマーズ計画は、開始以来何度か構想や協力関係が変更されてきました。当初は欧州のオーロラ計画の主要ミッションとして、ESAが大型探査車を単独で開発し、2011年にソユーズロケットで打ち上げる計画でした。その後、アメリカ航空宇宙局（NASA）との間で共同での火星探査を進める合意が形成され、打ち上げ機がアトラスロケットに変更されるなど、計画内容や資金調達にも大きな影響が出ました。このNASAとの協力体制の下では、TGOや複数の着陸機、ローバーを含む多岐にわたるミッションが検討されていました。

しかし、NASAがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の開発費増大に伴う予算の見直しの中で、2012年にエクソマーズ計画への参加を取りやめることを決定しました。これにより、計画は大幅な見直しを迫られます。

NASA撤退後、ESAはロシア国営宇宙企業ロスコスモスとの協力の下で計画を継続することを発表しました。ロスコスモスは打ち上げ用ロケット（プロトンM）や着陸機の一部を提供することで協力することになりました。この協力体制の構築に伴い、計画の構成要素やスケジュールが再び変更され、資金調達についても新たな課題が生じました。

2回のミッション構成

現在の計画では、エクソマーズは二度の打ち上げ機会に分けて実行されます。

第1弾ミッション（2016年）：

トレース・ガス・オービター（TGO）： 火星上空を周回しながら大気中の微量成分、特にメタンの分布を詳細に分析する衛星です。メタンは生命活動や地質活動に関連する可能性があり、その発生源を特定することが重要な科学的目的の一つです。TGOは将来のミッションにおける通信中継衛星としての役割も担います。打ち上げは成功し、現在も運用中です。
スキアパレッリEDM： 火星への突入、降下、着陸技術を実証するための試験機です。ESAが開発を担当しました。火星の大気に突入後、パラシュートや逆噴射エンジン、衝撃吸収構造を用いて軟着陸を目指す設計でした。着陸時の環境データ（気象、電磁場など）を測定する科学ペイロード（DREAMS）も搭載していましたが、残念ながら着陸直前に異常が発生し、地表に激突して失われました。

第2弾ミッション（2022年予定）：

カザチョク着陸機： ロシアが主に製造する固定式の着陸機で、探査車ロザリンド・フランクリンを火星表面へ安全に送り届ける役割を担います。ロシアは機体の大部分を、ESAは誘導・航法システムなどを担当します。この着陸機には、地表環境を長期にわたって観測するための観測装置も搭載される予定です。
* ロザリンド・フランクリン探査車： ESAが開発した6輪の自走式探査車（ローバー）です。火星表面を移動しながら、搭載された科学機器で岩石や土壌を分析し、生命の痕跡を探します。特に、ドリルを用いて地下2メートルまでのサンプルを採取し、車内の実験室で分析できる能力が特徴です。

着陸地点の選定

探査機の着陸地点は、科学的な重要性と安全性を考慮して慎重に選ばれます。特に、2009年に火星大気からメタンが検出されたことは、この計画において重要な意味を持ちました。メタンの存在は、生命活動か、あるいは地質学的活動の可能性を示唆しており、その発生源を特定し調査することが、計画の主要な科学的目的の一つとなったからです。TGOが火星上空からメタンの分布を詳細に観測し、その発生源と推測される領域の地図を作成することで、第2弾ミッションの着陸地点を最終的に決定する上で重要な情報を提供します。ロザリンド・フランクリン探査車は、TGOによって特定されたメタンの発生源候補地などを詳しく調査することになります。

エクソマーズ計画は、困難を乗り越えながら火星での生命探査という壮大な目標に向けて進められています。第2弾ミッションの成功は、火星科学、そして将来の太陽系探査において大きな一歩となることが期待されています。

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