エジプト王国

エジプト王国：ムハンマド・アリー朝と共和制への道

エジプト王国は、1922年から1953年まで存在した、現在のエジプト・アラブ共和国を前身とする立憲君主国です。ムハンマド・アリー朝による支配が続き、イギリスの保護国を経て、最終的にエジプト革命によって共和制に移行しました。本稿では、エジプト王国の歴史を、その成立から崩壊まで、詳細に考察します。

ムハンマド・アリー朝の隆盛

1805年、ムハンマド・アリーがオスマン帝国の属州エジプトの総督に就任すると、マムルークなどの既存勢力を排除し、強固な支配体制を確立しました。その後、1820年代にはスーダンへの侵攻を開始し、フンジュ・スルタン国を滅ぼすなど、勢力を拡大しました。ギリシャ独立戦争への出兵を巡っては、オスマン帝国と衝突するエジプト・トルコ戦争を引き起こしましたが、列強の介入によってシリア割譲を諦める代わりに、世襲総督制を認めさせました。これがムハンマド・アリー朝の事実上の成立へと繋がったのです。

イギリスの保護国化と独立運動の高まり

1869年のスエズ運河開通はエジプトの国際的地位を高めましたが、その建設費用は国の財政を圧迫し、1876年には財政破綻に陥りました。イギリスやフランスなどの列強がエジプトの財政を管理するようになり、事実上の植民地支配が始まります。1881年、アフメド・ウラービーらによる民族運動（ウラービー運動）が勃発しますが、イギリス軍の介入により鎮圧され、エジプトはイギリスの占領下に置かれました。さらにスーダンではマフディー戦争が勃発し、スーダンはエジプトの支配から離脱しました。第一次世界大戦中には、イギリスはエジプトを保護国化し、オスマン帝国からの完全分離を宣言しました。

独立への歩みと憲法制定

第一次世界大戦後、エジプトは独立を目指して講和会議に独立のための使節を送ろうとしましたが、イギリスの拒否に遭いました。これにより、反英運動はさらに激化し、イギリスは直接支配が困難と判断、1922年にエジプトの独立を認めました。しかし、これは名ばかりの独立であり、イギリス軍の駐留は継続されました。1923年には憲法が制定され、エジプトは立憲君主国となりました。1936年にはイギリスと同盟条約を締結し、イギリス軍の縮小に成功するなど、外交努力も続けられました。

第二次世界大戦とアラブ連盟

第二次世界大戦では、イタリア軍の侵攻を受けましたが、1942年のエル・アラメインの戦いで連合国軍が勝利し、ドイツ・イタリア軍はエジプトから撤退しました。しかし、ファルーク1世の連合国寄りの姿勢は、エジプト軍内部の不満を高める要因ともなりました。1945年には、エジプトはシリア、イラク、ヨルダン、レバノン、サウジアラビア、イエメンとアラブ連盟を結成しました。1948年の第一次中東戦争では敗戦し、王家に対する国民の信頼は失墜していきました。

エジプト革命と共和制への移行

1952年、エジプト各地で反英、反王政の動きが活発化し、イギリス軍への襲撃事件が多発しました。同年7月、ムハンマド・ナギーブとガマール・アブドゥル＝ナーセル率いる自由将校団がクーデターを決行、ファールーク1世は退位し、イタリアへ亡命しました。後継のフアード2世が即位しましたが、1953年6月19日、革命政権は王政廃止と共和制移行を宣言し、エジプト王国は歴史の幕を閉じました。エジプト王国は、イギリスの保護国という屈辱的な立場から脱却を試みたものの、内外の複雑な事情が絡み合い、共和制への移行という決断に至ったと言えるでしょう。その歴史は、近現代中東の歴史を理解する上で重要な一端を担っています。

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