エスレンジ

エスレンジは、スウェーデン北部の都市キルナ近郊に広がる、欧州における重要な宇宙関連施設です。単なるロケット発射場にとどまらず、高度な研究活動や衛星運用の中枢としての役割も担っています。この施設では、上層大気の観測や科学研究を目的とした観測ロケットの打ち上げ、高高度気球による実験、さらには人工衛星の追跡・通信といった幅広い業務が行われています。

エスレンジの起源は、1964年に設立された欧州宇宙研究機構（ESRO）によるものです。当初はESROの施設として運用されていましたが、1972年になると、新たに発足したスウェーデン宇宙公社（SSC）に所有権と管理が移管され、以降はスウェーデンの宇宙開発における中核拠点として発展を遂げました。

スウェーデン国内におけるロケット打上げ活動は、エスレンジ設立以前の1961年から1964年にかけて、クロノゴードで集中的に行われていました（この期間に18回の打上げが記録されています）。エスレンジが運用を開始すると、ロケット活動の中心はこちらへ移ります。ESRO管理下の1966年から1972年にかけて、150基を超える観測ロケットが打ち上げられました。これらの多くは、サントール、ナイキ・アパッチ、スキュアといった小型・中型ロケットであり、高度100kmから220kmの範囲で、主に地球大気の上層部や電離層の研究に貢献しました。1972年にスウェーデン宇宙公社の管理下に移ってからは、より大型のロケットにも対応できるようになり、現在ではテクサス、メーザー、マクサスという3つの主要なプログラムがエスレンジでのロケット活動を牽引しています。これらのプログラムは、欧州宇宙機関（ESA）やドイツ航空宇宙センター（DLR）などが推進する微小重力環境での科学研究を支援する重要な役割を果たしています。1966年以降、エスレンジから打ち上げられたロケットの総数は400基を超えており、多様な科学ミッションや技術試験が実施されてきました。施設には、アリエス用、サントール用、ブラックブラント等に使用されるMRL、そしてマクサスやスカイラークに使用されるスカイラーク発射塔の、計4基の発射台が整備されています。

北極圏に近いエスレンジの地理的な位置は、極軌道を周回する人工衛星との通信において、非常に大きな利点をもたらします。この立地を活かした衛星サービスは1978年に開始されました。エスレンジは、通信衛星の運用サポートも行っており、過去にはTele-Xや初期のSiriusシリーズ（Sirius-1, -2, -3）の通信を担い、現在もSirius-4などの衛星サービスに貢献しています。また、スウェーデンが開発・運用する科学衛星にとっては、エスレンジは主要な管制・通信拠点となっており、これまでに打上げられたすべてのスウェーデン科学衛星（Viking, Freja, Astridシリーズ, Odinなど）の管制がここを通じて行われてきました。

近年では、商業宇宙旅行の分野からも注目を集めています。ヴァージン・ギャラクティック社の創設者であるリチャード・ブランソン氏が、エスレンジを将来的な宇宙旅行のための宇宙港候補地の一つとして検討していることが知られており、新たな宇宙ビジネスの拠点となる可能性も秘めています。

エスレンジは、その設立から現在に至るまで、観測ロケットによる科学研究、衛星運用、そして将来の宇宙利用を見据えた取り組みなど、多岐にわたる活動を通じて、北極圏における宇宙科学・技術の発展に貢献し続ける重要なインフラストラクチャです。

もう一度検索