エゾオオカミ

エゾオオカミ（蝦夷狼）とは

エゾオオカミ（学名: Canis lupus hattai）は、かつて北海道に生息していたタイリクオオカミの亜種です。本州に生息していたニホンオオカミと同様に、人間による駆除が原因で絶滅しました。樺太や千島列島にも生息していたと考えられています。

形態

エゾオオカミは、頭胴長が120～129cm、尾長が27～40cmで、体毛は黄色っぽく、尾の先端が黒色をしています。両前足には黒い斑点があり、吻（口先）は細長いのが特徴です。ミトコンドリアDNA分析の結果、カナダ・ユーコン川流域に生息するオオカミと塩基配列が一致しており、遺伝的なつながりが示唆されています。

生態

エゾオオカミは群れを形成し、主にエゾシカを捕食していました。また、海岸に打ち上げられたクジラの死体やニシンなども食べていたとされています。

アイヌ文化におけるエゾオオカミ

古来より、アイヌの人々はエゾオオカミと共存しており、彼らはエゾオオカミを「ホロケウ」または「ホロケウカムイ」と呼び、神聖な存在として崇めていました。その他にも、「ウォセカムイ（吠える神）」、「ユクコイキカムイ（鹿を獲る神）」、「オンルプシカムイ（狩りをする神）」など、様々な異名で呼ばれていました。熊送りの儀式であるイオマンテの対象となることもあり、「狼送り」と呼ばれる祭典も行われていた地域がありました。

歴史

明治時代に入り、北海道の開拓が進むにつれて、エゾオオカミの獲物であるエゾシカが減少しました。代わりに、放牧されていたウマを襲うようになったため、明治10年（1877年）に開拓使によって賞金がかけられ、駆除が開始されました。新冠牧場では、エドウィン・ダンの提案により、1879年の夏から秋にかけてストリキニーネを使った毒餌による駆除が行われました。

1879年には、大雪によるエゾシカの大量死も発生し、エゾオオカミはさらに追い詰められました。奨励策が廃止された1888年までに、1,539頭（官庁に駆除されたものも含めると推定2,000～3,000頭）が駆除されました。1896年には、函館の毛皮商によってエゾオオカミの毛皮が数枚扱われたという記録を最後に、確認例がなくなり、絶滅したと考えられています。

絶滅の原因は、上記のような駆除のほかに、狂犬病やジステンパーなどの複合的な要因が推測されていますが、科学的な原因解明はされていません。南部千島列島においても、オオカミの生息は確認されていません。

再導入の可能性

エゾオオカミが絶滅した後、北海道ではエゾシカの増加による農業被害が多発しています。このため、生態系の観点から、エゾオオカミを再導入しようという動きも出てきています。

参考文献

犬飼哲夫「北海道産狼とその滅亡経路」『植物及動物』第1巻、第8号、11–18 [1091–1098]頁、1933年。
今泉吉典　『原色日本哺乳類図鑑』　保育社、1960年、162-163頁。
平岩米吉　『狼 - その生態と歴史 新装版』　1992年、築地書館、238-243頁。
ブレット・ウォーカー著　『絶滅した日本のオオカミ - その歴史と生態学』　浜健二訳、北海道大学出版会、2009年。

関連項目

ニホンオオカミ

外部リンク

絶滅危惧種情報検索 エゾオオカミ - 環境省版レッドデータブック
* 川崎悟司のイラスト集 - エゾオオカミ - ウェイバックマシン

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