エゾサンショウウオ

エゾサンショウウオ（学名：Hynobius retardatus）は、サンショウウオ科サンショウウオ属に分類される有尾両生類の一種です。日本では北海道にのみ自然分布する固有種であり、「鯢」や「山椒魚」という古称で呼ばれることもあります。この種の模式標本が最初に発見された場所（模式産地）は、北海道の登別と記録されています。

形態

成体は全長が11センチメートルから最大で18.5センチメートルに達し、頭から胴までの長さは6センチメートルから8.7センチメートルほどです。体色は個体によって異なり、暗褐色、褐色、暗灰色などが見られます。体側面には、体節を示すかのように左右に11本の明瞭な筋状のくぼみ（肋条）が入っています。後肢には5本の指（趾）があります。

繁殖期になると、オスの体には顕著な変化が現れます。体側面の皮膚が弛み、尾は泳ぐのに適した平たい鰭（ひれ）のような形になります。幼生には、頭部が異常に大きく発達する「巨頭化」を示す個体が見られます。これは、エゾアカガエルの幼生や同じエゾサンショウウオの幼生を食べるための適応と考えられています。また、幼生の姿のまま成熟する「幼形成熟（ネオテニー）」個体の存在も知られています。かつては倶多楽湖で確認されていましたが、1932年を最後に報告が途絶えていました。しかし、2020年と2021年には、北海道大学の研究グループが胆振地方の池で、約89年ぶりに幼形成熟したオス個体を発見したことが報告され、注目を集めました。染色体数は40本であることが確認されています。

分類

エゾサンショウウオの分類上の位置づけについては、かつて独立した「エゾサンショウウオ属（Satobius）」に分割すべきだという説がありました。この説は、体側面の肋条数、鋤骨歯列の形状、そしてサンショウウオ属の中で本種だけが持つ染色体数40という独自の遺伝的特徴に基づいています。しかし、遺伝学的研究の進展などにより、現在は従来のサンショウウオ属（Hynobius）に含める分類がより有力視されています。サンショウウオ属の中では、エゾサンショウウオは系統的に最も古い時代に分岐した、原始的な種である可能性が高いと考えられています。

生態

エゾサンショウウオは、平地から標高のある山地にかけて広がる沼沢地やその周辺環境に生息しています。主に夜行性で、日中は石の下や落ち葉の中に隠れていることが多いとされます。食性は動物食で、主に小さな昆虫やクモなどを捕食します。

繁殖期は、多くの地域で主に4月から5月にかけて迎えますが、標高の高い寒冷な場所では7月頃に繁殖することもあります。産卵場所は多様で、湖や池の岸辺、浅い水たまり、さらには人工的な環境である道路の側溝や用水路など、水辺であれば比較的どこにでも産卵します。産み付けられる卵は、ゼラチン質でできた長いひも状の卵嚢に包まれており、コイルのようにぐるぐると巻かれた特徴的な形をしています。産卵直後は卵嚢が白濁していますが、時間が経つにつれて透明になり、内部の卵が透けて見えるようになります。一つの繁殖場所に多数の個体が集まり、千匹以上のエゾサンショウウオが高密度で産卵を行うことも観察されています。

人間との関わりと保全状況

近年、エゾサンショウウオの生息数は減少傾向にあると指摘されています。主な減少要因としては、人間活動による生息環境の破壊が挙げられます。具体的には、河川の改修、森林の伐採や湿地の埋め立てに伴う牧草地化や土地開発、道路建設などが、生息地や繁殖地を失わせています。また、北海道で増加している外来種であるアライグマによる捕食も、エゾサンショウウオの生存を脅かす要因の一つとなっています。

こうした状況を踏まえ、環境省のレッドリストでは、エゾサンショウウオは「情報不足（DD：Data Deficient）」に分類されています。これは、生息状況や脅威に関する十分な情報が得られていないために、絶滅リスクを評価することが困難である状態を示しています。今後の詳細な調査と、生息環境の保全に向けた取り組みが求められています。

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