エディソン・デニソフ
エディソン・ヴァシリイェヴィチ・デニソフは、1929年4月6日にトムスクで生まれ、1996年11月24日にパリで亡くなった、旧ソ連を代表する作曲家です。彼は社会主義リアリズムの路線に反抗し、西側の現代音楽と歩調を合わせた独自の作風を確立したことで、「反体制派」の作曲家として認識されました。ソ連崩壊後には事実上亡命し、西側で活動を続けました。
シベリアで放射線専門の物理学者の家庭に生まれたデニソフは、アメリカの発明家トーマス・エジソンにあやかって「エディソン」と名付けられました。当初は数学を専攻していましたが、ドミートリイ・ショスタコーヴィチの指導を受け、作曲家への転身を決意。ショスタコーヴィチは、デニソフの才能を高く評価し、彼の音楽の道を親身になって支えました。二人の間の書簡は、現在も残されています。
モスクワ音楽院では、ヴィッサリオン・シェバリーンに作曲を、ニコライ・ラコフに管弦楽法を、ヴィクトル・ズッケルマンに楽曲分析を、ヴラジーミル・ベーロフにピアノを師事。1956年から1959年にかけて、ロシア民話に基づく3幕の歌劇《兵士イワン》を作曲しました。音楽院修了後は、管弦楽法や作曲法の教員として後進の指導にあたり、マルク・ミンコフ、ディミトリー・スミルノフなど、数多くの門下生を育てました。
デニソフは、当時ソ連で入手困難だった西側の現代音楽の楽譜を独自に研究しました。ピエール・ブーレーズやカールハインツ・シュトックハウゼン、グスタフ・マーラーやクロード・ドビュッシーなどの作品を分析し、現代作曲技法の論文を執筆する一方で、独自の作曲スタイルを模索しました。
1979年には、西側で開催されたソヴィエト音楽フェスティバルに参加したことが原因で、「フレンニコフの7人」として要注意人物に認定されます。しかし、ペレストロイカとグラスノスチの進展に伴い、ソ連現代音楽協会が再興されると、その指導者として迎えられました。しかし、ソビエト連邦崩壊後にはフランスへ亡命しました。
デニソフは1957年にガリナ・グリゴリエヴァと結婚し、長男ドミトリと長女エカテリーナをもうけましたが、後に離婚。その後、若い秘書と再婚し、次女アンナと三女マリアを授かりました。1990年代は子育てに追われる日々でしたが、交通事故で重傷を負い、その後遺症に苦しむことになりました。1996年、パリの病院で息を引き取りました。
デニソフは、自身の音楽について、美しさ、美しい着想、抒情性を重視していました。彼は、構成の完璧さも重要視しており、単に響きが良いだけでなく、数学者が理解するような美しい着想が必要だと語っています。また、「学究的な」音楽を嫌い、生き生きとした音楽を追求していました。
ガブリエラ・ミストラルによる詩に曲をつけた、ソプラノと室内アンサンブルのための連作歌曲《インカの太陽》は、デニソフに国際的な名声をもたらした出世作です。イゴール・ストラヴィンスキーもこの作品を高く評価しましたが、ソ連作曲家同盟からは酷評されました。その後も、多くの演奏家のために作品を書き続け、フルート協奏曲をオーレル・ニコレに、ヴァイオリン協奏曲をギドン・クレーメルに献呈するなど、幅広い分野で活躍しました。
デニソフは、サクソフォンのための作品も多く手がけており、ジャン＝マリー・ロンデックスのために創った《アルト・サクソフォンとピアノのためのソナタ》は、サクソフォン奏者の間で高く評価されています。また、多言語を用いたテクストによる《レクィエム》は、厳粛で衝撃的な作品として知られています。
主要な舞台音楽としては、ボリス・ヴィアン原作の歌劇《うたかたの日々》、パブロ・ピカソ原作の歌劇《4人の娘》、アルフレッド・ド・ミュッセによるバレエ音楽《告白》などがあります。
声楽曲
1964 《インカの太陽》
1964 《イタリア歌曲集》
1966 《嘆き》
1968 《秋》
1970 《イワン・ブーニンの2つの詩》
1973 《バラ色の生活》
1980 《レクィエム》
1989 《ジェラール・ド・ネルヴァルの4つの詩》
1992 《マタイ受難曲》
1995 《朝の夢》
1995 《メデアへの合唱》
歌劇
1956-9 《兵士イワン》
1981 《うたかたの日々》
1986 《四人の娘》
バレエ音楽
1984 《告白》
管弦楽曲
1970 《絵画》
交響曲
1987 交響曲第1番
1996 交響曲第2番
1982 室内交響曲第1番
1994 室内交響曲第2番
協奏曲
1972 チェロ協奏曲
1974 ピアノ協奏曲
1975 フルート協奏曲
1977 ヴァイオリン協奏曲
1977 サクソフォンと打楽器奏者のための小協奏曲
1982 《死は永い眠り》
1986 ヴィオラ協奏曲
1986 オーボエ協奏曲
1989 クラリネット協奏曲
1991 ギター協奏曲
1982 ファゴットとチェロと管弦楽のための二重協奏曲
1993 フルート、ヴィブラフォン、チェンバロと弦楽合奏のための協奏曲
1996 フルートとクラリネットと管弦楽のための二重協奏曲
室内楽曲
1968 《頌歌》
1968 《ロマンティックな調べ》
1969 弦楽三重奏曲
1969 木管五重奏曲
1969 《影絵》
1969 《鳥の声》
1969 《 DSCH》
1970 アルトサクソフォンとピアノのためのソナタ
1971 ピアノ三重奏曲
1984 《シューベルトの主題による変奏曲》
1985 《パウル・クレーによる3つの絵画》
1993 クラリネットとピアノのためのソナタ
1994 アルトサクソフォンとチェロのためのソナタ
1995 フルートとファゴット、ピアノのための三重奏曲
1996 フルート二重奏のためのソナタ
1996 《鳥と女》
1996 《日暮れ前に》
鍵盤楽曲
1974 《白の記号》
1995 《暗闇から光明へ》
その他
1996 モーツァルトの《フルートとハープのための協奏曲》のための3種のカデンツァ
1993 ドビュッシーの未完の歌劇《ロドリーグとシメーヌ》の補完
1995 シューベルトのオペラ＝オラトリオ《ラザロ、あるいは復活の記念》の補完
デニソフの作品は、ヴァレリア・ツェノヴァの「現代音楽の作曲理論」にも多数掲載されており、彼の音楽理論への貢献も評価されています。
生い立ちと音楽への道
シベリアで放射線専門の物理学者の家庭に生まれたデニソフは、アメリカの発明家トーマス・エジソンにあやかって「エディソン」と名付けられました。当初は数学を専攻していましたが、ドミートリイ・ショスタコーヴィチの指導を受け、作曲家への転身を決意。ショスタコーヴィチは、デニソフの才能を高く評価し、彼の音楽の道を親身になって支えました。二人の間の書簡は、現在も残されています。
モスクワ音楽院では、ヴィッサリオン・シェバリーンに作曲を、ニコライ・ラコフに管弦楽法を、ヴィクトル・ズッケルマンに楽曲分析を、ヴラジーミル・ベーロフにピアノを師事。1956年から1959年にかけて、ロシア民話に基づく3幕の歌劇《兵士イワン》を作曲しました。音楽院修了後は、管弦楽法や作曲法の教員として後進の指導にあたり、マルク・ミンコフ、ディミトリー・スミルノフなど、数多くの門下生を育てました。
作風と活動
デニソフは、当時ソ連で入手困難だった西側の現代音楽の楽譜を独自に研究しました。ピエール・ブーレーズやカールハインツ・シュトックハウゼン、グスタフ・マーラーやクロード・ドビュッシーなどの作品を分析し、現代作曲技法の論文を執筆する一方で、独自の作曲スタイルを模索しました。
1979年には、西側で開催されたソヴィエト音楽フェスティバルに参加したことが原因で、「フレンニコフの7人」として要注意人物に認定されます。しかし、ペレストロイカとグラスノスチの進展に伴い、ソ連現代音楽協会が再興されると、その指導者として迎えられました。しかし、ソビエト連邦崩壊後にはフランスへ亡命しました。
家庭生活と晩年
デニソフは1957年にガリナ・グリゴリエヴァと結婚し、長男ドミトリと長女エカテリーナをもうけましたが、後に離婚。その後、若い秘書と再婚し、次女アンナと三女マリアを授かりました。1990年代は子育てに追われる日々でしたが、交通事故で重傷を負い、その後遺症に苦しむことになりました。1996年、パリの病院で息を引き取りました。
音楽に対する考え方
デニソフは、自身の音楽について、美しさ、美しい着想、抒情性を重視していました。彼は、構成の完璧さも重要視しており、単に響きが良いだけでなく、数学者が理解するような美しい着想が必要だと語っています。また、「学究的な」音楽を嫌い、生き生きとした音楽を追求していました。
代表的な作品
ガブリエラ・ミストラルによる詩に曲をつけた、ソプラノと室内アンサンブルのための連作歌曲《インカの太陽》は、デニソフに国際的な名声をもたらした出世作です。イゴール・ストラヴィンスキーもこの作品を高く評価しましたが、ソ連作曲家同盟からは酷評されました。その後も、多くの演奏家のために作品を書き続け、フルート協奏曲をオーレル・ニコレに、ヴァイオリン協奏曲をギドン・クレーメルに献呈するなど、幅広い分野で活躍しました。
デニソフは、サクソフォンのための作品も多く手がけており、ジャン＝マリー・ロンデックスのために創った《アルト・サクソフォンとピアノのためのソナタ》は、サクソフォン奏者の間で高く評価されています。また、多言語を用いたテクストによる《レクィエム》は、厳粛で衝撃的な作品として知られています。
主要な舞台音楽としては、ボリス・ヴィアン原作の歌劇《うたかたの日々》、パブロ・ピカソ原作の歌劇《4人の娘》、アルフレッド・ド・ミュッセによるバレエ音楽《告白》などがあります。
主要作品一覧
声楽曲
1964 《インカの太陽》
1964 《イタリア歌曲集》
1966 《嘆き》
1968 《秋》
1970 《イワン・ブーニンの2つの詩》
1973 《バラ色の生活》
1980 《レクィエム》
1989 《ジェラール・ド・ネルヴァルの4つの詩》
1992 《マタイ受難曲》
1995 《朝の夢》
1995 《メデアへの合唱》
歌劇
1956-9 《兵士イワン》
1981 《うたかたの日々》
1986 《四人の娘》
バレエ音楽
1984 《告白》
管弦楽曲
1970 《絵画》
交響曲
1987 交響曲第1番
1996 交響曲第2番
1982 室内交響曲第1番
1994 室内交響曲第2番
協奏曲
1972 チェロ協奏曲
1974 ピアノ協奏曲
1975 フルート協奏曲
1977 ヴァイオリン協奏曲
1977 サクソフォンと打楽器奏者のための小協奏曲
1982 《死は永い眠り》
1986 ヴィオラ協奏曲
1986 オーボエ協奏曲
1989 クラリネット協奏曲
1991 ギター協奏曲
1982 ファゴットとチェロと管弦楽のための二重協奏曲
1993 フルート、ヴィブラフォン、チェンバロと弦楽合奏のための協奏曲
1996 フルートとクラリネットと管弦楽のための二重協奏曲
室内楽曲
1968 《頌歌》
1968 《ロマンティックな調べ》
1969 弦楽三重奏曲
1969 木管五重奏曲
1969 《影絵》
1969 《鳥の声》
1969 《 DSCH》
1970 アルトサクソフォンとピアノのためのソナタ
1971 ピアノ三重奏曲
1984 《シューベルトの主題による変奏曲》
1985 《パウル・クレーによる3つの絵画》
1993 クラリネットとピアノのためのソナタ
1994 アルトサクソフォンとチェロのためのソナタ
1995 フルートとファゴット、ピアノのための三重奏曲
1996 フルート二重奏のためのソナタ
1996 《鳥と女》
1996 《日暮れ前に》
鍵盤楽曲
1974 《白の記号》
1995 《暗闇から光明へ》
その他
1996 モーツァルトの《フルートとハープのための協奏曲》のための3種のカデンツァ
1993 ドビュッシーの未完の歌劇《ロドリーグとシメーヌ》の補完
1995 シューベルトのオペラ＝オラトリオ《ラザロ、あるいは復活の記念》の補完
デニソフの作品は、ヴァレリア・ツェノヴァの「現代音楽の作曲理論」にも多数掲載されており、彼の音楽理論への貢献も評価されています。
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