ヴィッサリオン・シェバリーン

ヴィッサリオン・ヤコヴレヴィチ・シェバリーン（1902年6月11日 - 1963年5月29日）は、20世紀ソ連を代表する作曲家の一人です。オムスクで生まれ、両親は共に学校教師という教育熱心な家庭で育ちました。音楽の才能を早くから開花させたシェバリーンは、オムスク音楽学校で学び、その後、モスクワ音楽院に進学しました。

モスクワ音楽院では、レインゴリト・グリエールとニコライ・ミャスコフスキーという2人の巨匠に師事し、作曲家としての基礎を築きました。特にミャスコフスキーはシェバリーンの才能を高く評価し、彼の卒業作品である《交響曲第1番》はミャスコフスキーに献呈されました。また、後年の《交響曲第5番》は、ミャスコフスキーの追悼作品として作曲されました。このことからも、ミャスコフスキーとシェバリーンの師弟関係が、非常に深く強いものであったことがうかがえます。

1920年代には、現代音楽連合（AMM）に参加し、同時代の作曲家たちと交流を深めました。また、モスクワ音楽院教授パヴェル・ラムのサークルにも参加し、ショスタコーヴィチとも親交がありました。これらの交流は、シェバリーンの音楽観形成に大きな影響を与えたと考えられます。

モスクワ音楽院卒業後は、母校の教授に就任し、後進の指導にあたりました。1935年には、グネーシン音楽大学作曲科の主任教授も兼任し、多くの才能ある音楽家を育てました。1942年から1948年という困難な時期には、モスクワ音楽院の院長やモスクワ中央音楽学校の芸術監督を務め、教育現場を支えました。しかし、1948年に「ジダーノフ批判」の犠牲となり、音楽界の表舞台から姿を消すことになりました。この批判は、シェバリーンの音楽活動に大きな打撃を与えましたが、彼はその才能を失うことはありませんでした。

シェバリーンの門下からは、ティホン・フレンニコフ、アレクサンドラ・パフムートワ、カレン・ハチャトゥリアン、ボリス・チャイコフスキー、エディソン・デニソフなど、後にソ連を代表する作曲家たちが数多く輩出しました。また、モスクワ作曲家同盟の創設者の一人でもあり、1941年から1942年までその議長を務めました。

シェバリーンは、同世代の作曲家の中でも特に教養と博識に恵まれた人物でした。その作品は、真摯で知的な作曲様式が特徴で、ミャスコフスキーの音楽にも通じる衒学的な側面も持ち合わせていました。オペラ、交響曲、弦楽四重奏曲、ソナタ、合唱曲、歌曲、舞台音楽、ラジオ劇音楽、映画音楽など、幅広いジャンルで作品を残しています。特に、オペラ《じゃじゃ馬馴らし》（1957年）は、彼の代表作の一つとして知られています。

初期の作品では、ドビュッシーやラヴェルなどのフランス印象主義音楽の影響が色濃く見られますが、その後、社会主義リアリズムの路線に従い、国民楽派の伝統をモダンな感覚で表現する作風へと変化しました。また、チャイコフスキーの祝典序曲《1812年》の終結部をソ連当局の依頼で改作したことでも知られています。さらに、グリンカの《2つのロシアの主題による交響曲》の校訂も手がけています。

1953年に脳卒中で倒れ、言語障害を患いましたが、その後回復し、音楽院の院長に復帰しました。しかし、1959年に再び脳卒中に見舞われ、言語能力をほぼ失ってしまいます。しかし、音楽を創作する能力は失われることなく、作曲活動を続けました。1953年の発病から1963年に亡くなるまでの間に11もの作品を作曲しました。この時期に書かれた《交響曲第5番》は、ショスタコーヴィチによって「豊かな感情と楽観と命にあふれた独創的で卓越した曲」と絶賛されました。

シェバリーンは、1963年、3度目の脳卒中で生涯を閉じました。彼の作品は、ソ連の音楽史において重要な位置を占めており、その音楽は現在も多くの人々に愛されています。ノヴォデヴィチ墓地に埋葬されています。

主な作品
交響曲第1番 ヘ短調 op. 6 (1925)
交響曲第2番 嬰ハ短調 op. 11 (1929)
ナレーターと独唱、合唱と管弦楽のための劇的交響曲「レーニン」 op. 16 (1931, 1959改定)
交響曲第3番 ハ長調 op. 17 (1935)
組曲第1番 op. 18 (1935)
組曲第2番 op. 22 (1935)
交響曲第4番 変ロ長調「ペレコープの英雄たち」 op. 24 (1935)
ロシア民謡によるシンフォニエッタ イ長調 op. 43 (1949—1951)
交響曲第5番 ハ長調 op. 56 (1962)
組曲第3番 op. 61 (1963)

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