エディ・トーラン

エディ・トーラン：ロサンゼルス五輪の栄光

エディ・トーラン（Thomas Edward "Eddie" Tolan, 1908年9月29日 - 1967年1月30日）は、20世紀前半に活躍したアメリカ合衆国の陸上競技選手です。コロラド州デンバーに生まれた彼は、その驚異的なスピードで世界の陸上界を席巻し、特に1932年のロサンゼルスオリンピックでは短距離2種目で世界の頂点に立ちました。

アスリートとしてのトーランの才能は、既に高校時代から顕著でした。彼は陸上競技にとどまらず、アメリカンフットボールでもその能力を発揮し、ミシガン州選手権で優勝する経験を持っています。陸上競技に本格的に専念するようになると、彼のスピードはさらに磨きがかかり、ミシガン大学在学中には、当時の陸上界の常識を覆す記録を次々と樹立しました。

特に、100ヤード走では9秒5という驚異的な世界新記録をマークし、瞬く間に陸上界のスターダムに駆け上がります。この記録樹立の時期には、彼の圧倒的な加速力とスピードを称して「深夜の超特急」（midnight express）という印象的な異名がつけられました。同時期には、100メートル競走でも複数回にわたり世界タイ記録を樹立しており、国内外での評価を不動のものとしました。

1932年、自国開催となったロサンゼルスオリンピックに向けて、トーランは順調に調整を進めました。全米選手権を制覇し、オリンピック代表の座を掴んだ彼でしたが、オリンピック本番前の国内選考レースでは、チームメイトであり、当時最強のライバルと目されていたラルフ・メトカーフに2度敗れるという予期せぬ結果に終わりました。しかし、大舞台での勝負強さを発揮したトーランは、オリンピック決勝で真価を見せつけます。

まず、男子100メートル競走では、宿敵メトカーフとの壮絶なデッドヒートを制し、オリンピック新記録で金メダルを獲得しました。続く200メートル競走でも再び素晴らしい走りを見せ、ここでもオリンピック新記録をマークして優勝。見事、オリンピックの短距離2種目で金メダルを獲得するという偉業を達成しました。なお、この大会では、メトカーフとともに4×100メートルリレーのメンバーに選出されることはありませんでしたが、アメリカチームは世界新記録を樹立し、金メダルを獲得しています。

オリンピックでの輝かしい成功を収めた後、トーランはアマチュア競技から引退しました。引退後も、プロ選手としていくつかのレースに出場したり、エンターテイメントの世界であるヴォードヴィルを経験するなど、多様な活動を展開しました。やがて落ち着いた生活を選び、学校教師として教壇に立ち、後進の育成に携わりました。彼の生涯は、1967年1月30日、デトロイトで心筋梗塞により幕を閉じました。享年58歳でした。

トーランの「深夜の超特急」という異名は、日本の陸上界とも興味深いつながりを持っています。彼と同時代に活躍した日本人短距離ランナーである吉岡隆徳もまた、その高速な走りから「暁の超特急」と呼ばれましたが、この異名は当時の読売新聞記者であった川本信正氏が、エディ・トーランのあだ名に触発されて命名したものです。国境を越えた「超特急」たちの異名は、時代を超えて短距離走の世界における伝説的な存在として語り継がれています。エディ・トーランの残した記録と功績は、世界の陸上競技史にその名を確かに刻み続けています。

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