エドワード・ブルワー＝リットン

エドワード・ブルワー＝リットン：19世紀イギリスを代表する文豪の生涯と多様な才能

エドワード・ジョージ・アール・リットン＝ブルワー＝リットン（1803-1873）は、19世紀イギリスの小説家、劇作家、政治家として多大な影響を与えた人物です。貴族の家に生まれ、華麗な社交生活を送る一方で、旺盛な創作活動を行い、チャールズ・ディケンズと並ぶ人気作家として名を馳せました。また、政治家としては保守党政権の植民地大臣を務めるなど、その活躍は多岐にわたります。

激動の生い立ちと文筆への道

1803年、ロンドンに生まれたリットンは、裕福な家庭に生まれながらも、父親からの愛情に恵まれない幼少期を過ごします。母親の溺愛を受けながらも、孤独の中で育ち、読書に没頭。イートン校への進学を拒否し、独学で知見を深めていきました。ケンブリッジ大学在学中には、湖水地方で出会った女性への失恋をきっかけに、作家への道を志すことになります。この経験は、彼の作品に深く刻まれることとなるでしょう。

文壇での成功と社会との摩擦

ケンブリッジ大学卒業後、作家として活動を本格化させたリットンは、初期作品で社会道徳規範に挑むことで注目を集めます。しかし、一方でイギリスの批評家たちから激しい批判を受け、文壇との確執も生じました。初期の成功の後、彼は社会が求める理想像を描いた作品を発表するようになります。村の生活、家族の絆といった伝統的な価値観を称賛することで、読者への慰めを与えながら、同時に自身の社会への違和感も作品に反映させています。

社交界でも、ブレッシントン伯爵夫人の文芸サロン「ゴア・ハウス」に名を連ね、ディズレーリやディケンズら著名人と交流を持ちました。しかし、主流派とは距離を置き、批評家や読者への批判を公然と表明することも少なくありませんでした。この姿勢は、彼の文壇における独自のポジションを確立した一方で、生涯にわたる孤立感を招いたとも考えられます。

政治家としての活動

作家としての成功に加え、リットンは政治家としても活躍します。庶民院議員として活動し、後に植民地大臣に就任。ブリティッシュ・コロンビア植民地の創設やオーストラリアのクイーンズランド州分離など、植民地政策に大きな足跡を残しました。政治家としての活動は小説家としての活動と並行して行われ、その多忙さは私生活にも影響を与えます。

近代オカルティズムへの多大な影響

リットンは幼い頃から神秘主義やオカルトに強い関心を抱いていました。彼の作品の中には、『ザノーニ』、『来たるべき種族』といった、神秘主義や超自然的な要素を深く掘り下げた小説が数多くあります。『ザノーニ』に登場する不老不死の主人公や、『来たるべき種族』で描かれる高度な文明を持つ異種族は、後の近代オカルティズム、神智学、そして現代のファンタジー小説にも大きな影響を与えました。特に、『来たるべき種族』に登場する「ヴリル」という概念は、ボヴリルという牛肉エキスの商品名にも使用されるなど、広く社会に浸透することとなりました。

家庭生活と晩年

リットンは、社交界の美しい女性と結婚するも、多忙な生活と気性の激しさから、夫婦仲は次第に悪化し、別居に至ります。また、数々の愛人関係を持ち、私生活は奔放でした。家族関係も良好とは言えず、息子のロバートは後にインド総督を務めるも、その在任中には飢饉を悪化させ、多くの犠牲者を出しました。晩年は、民主主義の崩壊への不安を作品に反映させながら、創作活動を続けました。1873年に死去。

日本におけるリットン

日本では、明治時代に彼の小説が翻訳され、文壇に大きな影響を与えました。河竹黙阿弥による歌舞伎作品『人間万事金世中』も、リットン作品の翻案であることは広く知られています。また、孫のヴィクター・ブルワー＝リットンはリットン調査団の団長として有名です。

まとめ

エドワード・ブルワー＝リットンは、小説家、劇作家、政治家として多様な才能を発揮した、19世紀イギリスを代表する文豪です。『ポンペイ最後の日』などの代表作は、現在でも高い評価を得ており、その作品世界は、現代の文学や文化にも大きな影響を与え続けています。また、近代オカルティズムへの影響も無視できないほど大きく、その生涯は、創作活動、政治活動、そして私生活における複雑な側面を併せ持つ、興味深いものです。彼の作品、そして生涯は、現代においても深く考察に値する、豊穣なテーマを提供し続けています。

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