植民地大臣

植民地大臣：大英帝国の興亡を象徴する役職

植民地大臣とは、かつてイギリスに存在した閣僚の役職であり、大英帝国が世界中に広げた植民地を統括する役割を担っていました。その歴史は、大英帝国の隆盛と衰退、そして国際情勢の変遷を色濃く反映しています。

誕生と変遷

18世紀、大英帝国の植民地拡大に伴い、その対策の重要性が増したことを受け、1768年に「アメリカおよび植民地大臣」のポストが新設されました。しかし、1782年に北アメリカ植民地の独立がほぼ確実となると、このポストは廃止され、植民地に関する業務は内務大臣が担当することになりました。

その後、フランス革命戦争の勃発により軍事的な統括を強化する観点から、1801年に陸軍大臣が植民地問題も所管することになり、「陸軍・植民地大臣」のポストが新設されました。

19世紀中期のクリミア戦争で陸軍の非効率性が明らかになると、陸軍・植民地省の改革が求められ、1854年に植民地問題が陸軍から分離され、再び陸軍大臣と植民地大臣がそれぞれ設置されることになりました。

大英帝国の使命

大英帝国の最盛期であるヴィクトリア朝時代には、植民地大臣は「帝国の使命（Imperial Mission）」を担う者として強い自負心を持っていました。例えば、第4代カーナーヴォン伯爵ヘンリー・ハーバートは、イギリスの帝国主義を「平和を維持し、現地民を教化し、飢餓から救い、世界各地の臣民を忠誠心によって結び付け、世界から尊敬される政治体制である」と捉え、ジョゼフ・チェンバレンは「未開発地域の文明化こそがイギリスの使命である」と主張していました。

ただし、大英帝国の植民地のうち、インドに関する事務はインド大臣が担当し、1925年以降は自治領（ドミニオン）に関する事務は自治領大臣（1947年に英連邦関係大臣に改名）が担当することになり、植民地省は自治領以外の植民地を所管する役所となりました。

終焉

第二次世界大戦後、大英帝国の植民地の多くが独立し、植民地省が管理する植民地臣民の数は激減しました。役割が縮小した植民地大臣は、1966年に英連邦関係大臣と統合され、英連邦大臣に改組されました。さらに1968年には、英連邦大臣と外務大臣が統合され、外務・英連邦・開発大臣となり、現在に至っています。

植民地大臣の歴史的意義

植民地大臣は、大英帝国の植民地政策を推進し、その拡大に大きく貢献しました。しかし、その一方で、植民地支配による負の遺産も存在します。植民地大臣の歴史は、大英帝国の光と影を映し出す鏡と言えるでしょう。

参考文献

池田清『政治家の未来像 ジョセフ・チェムバレンとケア・ハーディー』有斐閣、1962年
坂井秀夫『政治指導の歴史的研究 近代イギリスを中心として』創文社、1967年
松村赳、富田虎男『英米史辞典』研究社、2000年
モリス, ジャン 著、椋田直子 訳『ヘブンズ・コマンド 大英帝国の興隆 下巻』講談社、2008年

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