エナジー・コンバージョン・デバイセズ
エナジー・コンバージョン・デバイセズ（略称：E.C.D.、Energy Conversion Devices）は、アメリカ合衆国に拠点を置いた、再生可能エネルギー分野の企業です。特に、アモルファスシリコンを用いた薄膜太陽電池の製造で知られ、柔軟な素材にラミネートされた製品や、建材一体型の太陽光発電システムの開発に注力しました。太陽光発電事業のほか、充電式バッテリーなど、エネルギー変換や貯蔵に関わる多様な技術を手がけていました。本社はミシガン州ロチェスター・ヒルズに置かれていました。
ECDは、完全子会社であるユナイテッド・ソーラー・オボニックLLC（一般にはユニソーラーとして知られる）を通じて、かつては世界最大のフレキシブルソーラーパネル生産者として名を馳せました。ユニソーラーのパネルは、細長い長方形の形状をしており、様々な支持面に接着して設置できる柔軟性が特徴でした。この柔軟性から、平らな屋根、レクリエーション用車両（キャンピングカー）、トラックのキャブなど、幅広い用途で活用されました。
同社の事業は主に二つのセグメントに分けられていました。
1. ユナイテッド・ソーラー・オボニック（USO）：建物一体型や屋上設置型の太陽光発電システム向けに、太陽光を電気に変換する薄膜太陽電池ラミネートの製造、販売、設置を担当しました。屋根材と直接統合できるよう設計された製品も含まれます。
2. オボニック・マテリアルズ：ECDの基盤となる材料科学技術に基づき、新たな材料や製品の発明、設計、開発を進める部門でした。代替エネルギー生成（主に太陽エネルギー）、エネルギー貯蔵、情報技術市場向けの技術実用化を目指しました。
「オボニックス（Ovonics）」という名称は、同社の技術的ルーツを示すもので、創設者であるスタンフォード・ロバート・オブシンスキー氏の名前（Ovshinsky）と「electronics」を組み合わせた造語です。オブシンスキー氏は科学者であり起業家であり、特定の材料（特殊な組成のガラスなど）が、ある電圧を印加することで電気的に非伝導状態から半導体状態へと変化する現象、すなわちアモルファス半導体の研究を推進したパイオニアです。彼は1960年にECDを設立し、この分野の研究を深めました。相変化メモリ技術などもオボニックスの応用例として挙げられます。オブシンスキー氏とECDは、環境負荷の少ないエネルギー源開発に貢献しようとしました。彼の功績は高く評価され、1999年にはタイム誌で「地球の英雄」に選ばれ、2005年には米国太陽エネルギーの殿堂入りを果たしています。
ECD オボニックスの株式は、NASDAQおよびフランクフルト証券取引所に上場していましたが、後述の破産申請に伴い上場廃止となりました。
ECD オボニックスは、エネルギー生成、エネルギー貯蔵、情報技術の三分野に事業を分け、多数の子会社を有していました。
エネルギー生成関連：ユナイテッド・ソーラー・オボニック・コーポレーション（フレキシブル太陽電池）、ソーラー・インテグレーテッド・インク（太陽光発電設備の管理、設計、建設など）、オボニック・フューエル・セル・カンパニーLLCなどがありました。
エネルギー貯蔵関連：オボニック・ハイドロジェン・システムズLLC、オボニック・バッテリー・カンパニー（ニッケル水素電池）、そしてレア・アース・オボニック・インナー・モンゴルやコバシスといったバッテリー関連の合弁事業が含まれます。
* 情報技術関連：オボニック・メディア、オボニックス・インク、オボニック・コグニティブ・コンピュータなどが名を連ねました。
特にユナイテッド・ソーラー・オボニック・コーポレーションは、2008年時点で世界最大の太陽光発電ラミネートメーカーであり、米国内ではFirst Solarに次ぐ規模でした。彼らのユニソーラーパネルは、11個の三重接合アモルファスシリコン太陽電池を直列に接続したもので、変換効率は11～13%でした。耐久性の高いETFEポリマーで封止され、「ユニソーラー」ブランドで販売されました。製品の多くは、金属屋根やポリマー屋根膜の製造業者に供給されました。また、宇宙用途向けの柔軟な薄膜太陽光発電製品の開発も行っていました。
ソーラー・インテグレーテッド・インクは、ユニソーラー製品の設置に関するEPC（エンジニアリング、調達、建設）請負業者として、システム全体の管理、設計、建設、運用、保守までを一手に担いました。
オボニック・バッテリーが開発したニッケル水素（NiMH）電池は、1990年代後半の電気自動車（シボレーS-10 EV、GM EV1など）や、その後の多くのハイブリッド車に採用されました。しかし、このバッテリー事業は複雑な特許問題を抱えることになります。
1994年、ゼネラルモーターズ（GM）は、大型NiMHバッテリー製造特許を含む、オボニックスのバッテリー関連事業に対する支配権を取得しました。その後、2000年にテキサコがGM保有分を購入し、さらにその直後にシェブロンがテキサコを買収しました。2003年には、テキサコ・オボニックス・バッテリー・システムズがシェブロンとECDオボニックスの50対50合弁事業であるコバシスに再編されました。シェブロンはコバシスの知的財産の50%を保有し、NiMH技術の販売やライセンス供与に対する拒否権、さらにECDが契約義務を履行しない場合の知的財産差し押さえ権も保持していました。2007年にはシェブロンがECDの義務不履行を主張し、ECDがこれに異議を唱えるという法的係争が発生しています。
ジャーナリストのシェリー・ボッシャートは、著書『プラグイン・ハイブリッド』の中で、コバシスが大型NiMHバッテリーの商業化を妨げている可能性を指摘しました。コバシスは小規模な企業や個人への販売・ライセンス供与を拒否し、大量注文しか受け付けず、当時主要自動車メーカーの関心が低かったため、事実上自動車用NiMHバッテリーの製造が進まなかったと論じています。GMとの間でサターン・オーラやシボレー・マリブへのバッテリー供給契約が結ばれたこともありましたが、車両の製造中止などで実現しませんでした。メルセデスもNiMHバッテリー採用を計画しましたが、シェブロンの資金引き上げによりバッテリーが供給されませんでした。結局、コバシスは2009年にサムスンSDIとボッシュの合弁会社であるSB LiMotiveに買収され、後にボッシュに統合されました。
特許の複雑さも影響する中、ECDは2012年2月に、過半数を所有していたオボニック・バッテリー・カンパニーをBASFコーポレーションに売却しました。
NiMHバッテリー事業の複雑な問題や、太陽光発電市場の変化など、様々な要因が重なり、エナジー・コンバージョン・デバイセズ, Inc. およびその子会社であるユナイテッド・ソーラー・オボニックLLC、ソーラー・インテグレーテッド・テクノロジズ, Inc. は、2012年2月14日にミシガン州東部地区連邦地方裁判所に破産申請を行いました。
ECDは、柔軟な薄膜太陽電池や先進的なバッテリー技術など、再生可能エネルギー分野で先駆的な取り組みを行いましたが、最終的には経営破綻という結末を迎えました。スタンフォード・オブシンスキーが提唱したオボニックス技術は、その後の相変化メモリなどの分野で一部が引き継がれています。
歴史と事業内容
ECDは、完全子会社であるユナイテッド・ソーラー・オボニックLLC（一般にはユニソーラーとして知られる）を通じて、かつては世界最大のフレキシブルソーラーパネル生産者として名を馳せました。ユニソーラーのパネルは、細長い長方形の形状をしており、様々な支持面に接着して設置できる柔軟性が特徴でした。この柔軟性から、平らな屋根、レクリエーション用車両（キャンピングカー）、トラックのキャブなど、幅広い用途で活用されました。
同社の事業は主に二つのセグメントに分けられていました。
1. ユナイテッド・ソーラー・オボニック（USO）：建物一体型や屋上設置型の太陽光発電システム向けに、太陽光を電気に変換する薄膜太陽電池ラミネートの製造、販売、設置を担当しました。屋根材と直接統合できるよう設計された製品も含まれます。
2. オボニック・マテリアルズ：ECDの基盤となる材料科学技術に基づき、新たな材料や製品の発明、設計、開発を進める部門でした。代替エネルギー生成（主に太陽エネルギー）、エネルギー貯蔵、情報技術市場向けの技術実用化を目指しました。
オボニックス技術とその創設者
「オボニックス（Ovonics）」という名称は、同社の技術的ルーツを示すもので、創設者であるスタンフォード・ロバート・オブシンスキー氏の名前（Ovshinsky）と「electronics」を組み合わせた造語です。オブシンスキー氏は科学者であり起業家であり、特定の材料（特殊な組成のガラスなど）が、ある電圧を印加することで電気的に非伝導状態から半導体状態へと変化する現象、すなわちアモルファス半導体の研究を推進したパイオニアです。彼は1960年にECDを設立し、この分野の研究を深めました。相変化メモリ技術などもオボニックスの応用例として挙げられます。オブシンスキー氏とECDは、環境負荷の少ないエネルギー源開発に貢献しようとしました。彼の功績は高く評価され、1999年にはタイム誌で「地球の英雄」に選ばれ、2005年には米国太陽エネルギーの殿堂入りを果たしています。
ECD オボニックスの株式は、NASDAQおよびフランクフルト証券取引所に上場していましたが、後述の破産申請に伴い上場廃止となりました。
多様な事業と子会社
ECD オボニックスは、エネルギー生成、エネルギー貯蔵、情報技術の三分野に事業を分け、多数の子会社を有していました。
エネルギー生成関連：ユナイテッド・ソーラー・オボニック・コーポレーション（フレキシブル太陽電池）、ソーラー・インテグレーテッド・インク（太陽光発電設備の管理、設計、建設など）、オボニック・フューエル・セル・カンパニーLLCなどがありました。
エネルギー貯蔵関連：オボニック・ハイドロジェン・システムズLLC、オボニック・バッテリー・カンパニー（ニッケル水素電池）、そしてレア・アース・オボニック・インナー・モンゴルやコバシスといったバッテリー関連の合弁事業が含まれます。
* 情報技術関連：オボニック・メディア、オボニックス・インク、オボニック・コグニティブ・コンピュータなどが名を連ねました。
特にユナイテッド・ソーラー・オボニック・コーポレーションは、2008年時点で世界最大の太陽光発電ラミネートメーカーであり、米国内ではFirst Solarに次ぐ規模でした。彼らのユニソーラーパネルは、11個の三重接合アモルファスシリコン太陽電池を直列に接続したもので、変換効率は11～13%でした。耐久性の高いETFEポリマーで封止され、「ユニソーラー」ブランドで販売されました。製品の多くは、金属屋根やポリマー屋根膜の製造業者に供給されました。また、宇宙用途向けの柔軟な薄膜太陽光発電製品の開発も行っていました。
ソーラー・インテグレーテッド・インクは、ユニソーラー製品の設置に関するEPC（エンジニアリング、調達、建設）請負業者として、システム全体の管理、設計、建設、運用、保守までを一手に担いました。
バッテリー事業とその複雑な経緯
オボニック・バッテリーが開発したニッケル水素（NiMH）電池は、1990年代後半の電気自動車（シボレーS-10 EV、GM EV1など）や、その後の多くのハイブリッド車に採用されました。しかし、このバッテリー事業は複雑な特許問題を抱えることになります。
1994年、ゼネラルモーターズ（GM）は、大型NiMHバッテリー製造特許を含む、オボニックスのバッテリー関連事業に対する支配権を取得しました。その後、2000年にテキサコがGM保有分を購入し、さらにその直後にシェブロンがテキサコを買収しました。2003年には、テキサコ・オボニックス・バッテリー・システムズがシェブロンとECDオボニックスの50対50合弁事業であるコバシスに再編されました。シェブロンはコバシスの知的財産の50%を保有し、NiMH技術の販売やライセンス供与に対する拒否権、さらにECDが契約義務を履行しない場合の知的財産差し押さえ権も保持していました。2007年にはシェブロンがECDの義務不履行を主張し、ECDがこれに異議を唱えるという法的係争が発生しています。
ジャーナリストのシェリー・ボッシャートは、著書『プラグイン・ハイブリッド』の中で、コバシスが大型NiMHバッテリーの商業化を妨げている可能性を指摘しました。コバシスは小規模な企業や個人への販売・ライセンス供与を拒否し、大量注文しか受け付けず、当時主要自動車メーカーの関心が低かったため、事実上自動車用NiMHバッテリーの製造が進まなかったと論じています。GMとの間でサターン・オーラやシボレー・マリブへのバッテリー供給契約が結ばれたこともありましたが、車両の製造中止などで実現しませんでした。メルセデスもNiMHバッテリー採用を計画しましたが、シェブロンの資金引き上げによりバッテリーが供給されませんでした。結局、コバシスは2009年にサムスンSDIとボッシュの合弁会社であるSB LiMotiveに買収され、後にボッシュに統合されました。
特許の複雑さも影響する中、ECDは2012年2月に、過半数を所有していたオボニック・バッテリー・カンパニーをBASFコーポレーションに売却しました。
破産へ
NiMHバッテリー事業の複雑な問題や、太陽光発電市場の変化など、様々な要因が重なり、エナジー・コンバージョン・デバイセズ, Inc. およびその子会社であるユナイテッド・ソーラー・オボニックLLC、ソーラー・インテグレーテッド・テクノロジズ, Inc. は、2012年2月14日にミシガン州東部地区連邦地方裁判所に破産申請を行いました。
ECDは、柔軟な薄膜太陽電池や先進的なバッテリー技術など、再生可能エネルギー分野で先駆的な取り組みを行いましたが、最終的には経営破綻という結末を迎えました。スタンフォード・オブシンスキーが提唱したオボニックス技術は、その後の相変化メモリなどの分野で一部が引き継がれています。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。