エベニーザー・プラウト

エベニーザー・プラウト（1835年 3月1日 - 1909年 12月5日）は、イングランドが生んだ傑出した音楽家であり、特に音楽理論家、教育者、そして作家として名を馳せました。作曲家としても活動した彼の業績は、後世のイギリス音楽界に計り知れない影響を及ぼしています。

生涯とキャリア

アウンドルに生まれたプラウトは、チャールズ・サラマンからピアノの手ほどきを受けましたが、音楽の知識や技能の大部分は独学で習得しました。当初は学者を目指しロンドン大学に進学しましたが、音楽への強い情熱が彼を音楽の道へと導きました。

彼の音楽家としての活動は多岐にわたります。1861年から1873年までイズリントンのユニオン・チャペルでオルガニストを務め、また1861年から1885年にかけては水晶宮芸術学校でピアノ科の教授として教鞭を執りました。初期には作曲でも才能を示し、1862年の弦楽四重奏曲、1865年のピアノ四重奏曲で英国音楽家協会より1等賞を受賞しています。さらに、音楽ジャーナリズムの世界でも活躍し、『マンスリー・ミュージカル・レコード』誌の編集者（1871年-1874年）や、『アカデミー』誌（1874年-1879年）、『Athenaeum』誌（1879年以降）で音楽評論を執筆しました。

教育者・理論家としての功績

プラウトは教育者として極めて高く評価されており、イギリスの主要な音楽教育機関で要職を務めました。1879年にはロンドンの王立音楽アカデミーで和声科教授に就任し、その後1884年にはギルドホール音楽演劇学校、1894年にはダブリン大学の音楽科教授となりました。ダブリン大学では翌年に名誉音楽博士号を授与されています。彼は通常の講義に加え、重要な公開講座シリーズを開催しており、特に自ら訓練した歌手を伴って行ったバッハのカンタータに関する講義は注目を集めました。

彼の名前を今日に伝える最大の功績は、数多くの優れた音楽理論書の執筆です。『Harmony, its Theory and Practice』（1889年）、『Counterpoint』（1890年）、『Double Counterpoint and Canon』（1891年）、『Fugue』（1891年）、『Fugal Analysis』（1892年）、『Musical Form』（1893年）、『Applied Forms』（1895年）、そしてオーケストレーションに関する二巻の著書『The Orchestra』（1898年、1899年）は、瞬く間に音楽理論教育の標準的な教科書となり、多くの言語に翻訳されて世界中で利用されました。

作曲と編纂

プラウトは自身の作品として、管弦楽曲、室内楽曲、声楽曲、教会音楽など多岐にわたるジャンルの楽曲を作曲しました。また、多くの楽曲の編纂にも携わっており、特にヘンデルのオラトリオに深く関わりました。彼は『メサイア』の管楽器パートのオリジナル稿の再発見に直接的に貢献し、1902年にはその成果を基にした新しい総譜と歌唱譜を作成して王立音楽家協会に提供しました。しかし、編纂者としての彼のスタンスは、現代の楽譜研究とは異なります。当時の一般的な慣習に従い、彼はヘンデル自身が記したフレージングや表現記号を、自身の美的感覚や当時の演奏習慣に合わせて変更することを正しいと考えていました。この点は、同時代にヘンデルの自筆譜に忠実な版を初めて制作したフリードリヒ・クリュザンダーとは対照的です。

影響と門下生

プラウトの教育者としての影響は絶大でした。彼の門下からは、アーサー・ゴーリング・トーマス、オイゲン・ダルベール、ジョン・ウォーターハウス、ヘンリー・ウッド、エドワード・ジャーマンなど、後のイギリス音楽界で重要な役割を果たす多くの音楽家が輩出されています。

彼の息子のルイス・ベートーヴェン・プラウトもまた音楽理論家となり、父の下で学んだ後、ギルドホール音楽演劇学校の教授を務めました。ルイス・ベートーヴェンは『Analysis of Bach's 48 Fugues』など複数の音楽理論書を執筆したほか、昆虫学者としても著名で、シャクトリムシ研究の第一人者でした。

エベニーザー・プラウトは1909年 12月5日にロンドンで逝去しました。彼の残した理論書と教育者としての功績は、現代に至るまで音楽教育の重要な基盤の一つとなっています。

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