エドワード・ジャーマン

サー・エドワード・ジャーマン

エドワード・ジャーマン（1862年2月17日 - 1936年11月11日）は、ウェールズ人の血を引くイングランドの音楽家、作曲家です。イギリス音楽界において、特にコミック・オペラと劇付随音楽の分野でアーサー・サリヴァンの後継者と見なされ、多大な作品を残しました。しかし、彼の創作活動はこれに留まらず、交響曲や管弦楽組曲、歌曲、ピアノ曲など、多岐にわたるジャンルで活躍しました。

生涯と初期のキャリア

ジャーマンはジャーマン・エドワード・ジョーンズとして、イングランドのシュロップシャー州ホワイトチャーチに生まれました。幼少期から音楽に強い関心を示し、父親からピアノとオルガンの手ほどきを受けました。6歳で少年楽団を組織し、ヴァイオリン演奏、作曲、編曲の実践的な経験を積みます。両親は彼に別の道を進ませようとしましたが、病気により断念。音楽への道を深めることとなりました。シュルーズベリーでの音楽学習を経て、18歳でロンドンの王立音楽アカデミーに入学します。アカデミーではヴァイオリンとオルガンを学びつつ、エベニーザー・プラウトに師事し、本格的な作曲の訓練を受けました。学生時代にヴァイオリンの助教授を務めるなど演奏家としても才能を発揮しましたが、1885年に作曲でチャールズ・ルーカス・メダルを受賞したことを機に、作曲家としての道へと重心を移していきます。アカデミー時代の友人には、後に婚約するも破局した作曲家エセル・メアリ・ボイスがいました。ジャーマンは生涯独身でした。

劇音楽と管弦楽作品での成功

アカデミー卒業後も、ウィンブルドンでの教職やロンドンの劇場オーケストラでのヴァイオリン演奏を続けました。彼のキャリアに大きな転機をもたらしたのは、1888年にグローブ・シアターの音楽監督に就任したことです。ここで彼は多くの劇付随音楽を手がけ、作曲家として広く認知されるようになります。代表的な作品には、1889年の『リチャード三世』、1892年の『ヘンリー八世』、1900年の『ネル・グウィン』などがあります。特に『ヘンリー八世』の音楽は、イングランドの古い舞踊を取り入れたことで大成功を収め、劇音楽からの抜粋による組曲も演奏会で人気を博しました。ジャーマンは劇付随音楽の第一人者として、次々と委嘱を受けるようになります。

彼は並行して演奏会用の純音楽作品も創作しました。交響曲、管弦楽組曲、交響詩、歌曲、ピアノ曲など、幅広いジャンルに及びます。1893年にノリッチ音楽祭のために書いた『交響曲第2番』は、批評家ジョージ・バーナード・ショーからの厳しい評価に影響され、ジャーマンはその後、交響曲形式から離れる傾向を見せます。代わりに、彼は大規模な管弦楽作品を『交響組曲』として発表する戦略をとりました。この時期の代表的な管弦楽作品には、1895年のリーズ音楽祭のための組曲、1899年の『四季』、そして今日最もよく知られている作品の一つである1904年の『ウェールズ狂詩曲』などがあります。

コミック・オペラの時代

ジャーマンのもう一つの大きな功績は、コミック・オペラの分野です。1900年にアーサー・サリヴァンが死去した後、彼はサヴォイ劇場で上演されるサリヴァンの遺作『エメラルドの島』の補筆完成を依頼されました。この成功が契機となり、彼は数多くのコミック・オペラの作曲依頼を受けることとなります。特にバジル・フードとの共同制作による『Merrie England』（1902年）と『Tom Jones』（1907年）は、彼の代表作として高く評価されています。『Merrie England』は圧倒的な人気を博し、その楽曲は今も親しまれており、イギリスのライト・オペラの基準的作品として、アマチュア団体によって頻繁に上演されています。しかし、ウィリアム・S・ギルバートと組んだ最後のオペラ『Fallen Fairies』（1909年）は失敗に終わり、この経験はジャーマンの作曲活動に大きな影響を与えました。また、世紀が変わるにつれてミュージカル・シアターが隆盛し、サヴォイ劇場の伝統的なコミック・オペラへの聴衆の関心は薄れていきました。

晩年と遺産

『Fallen Fairies』の失敗とその後の不愉快な出来事は、ジャーマンの作曲意欲を大きく削ぎました。以降、彼は非常に限られた作品しか発表しなくなります。これには、1911年のジョージ5世戴冠式のための音楽や、最後の主要作品となった1922年の音詩『The Willow Song』などがあります。作曲活動からは距離を置いたものの、指揮活動は1928年まで精力的に続けました。この間、彼はイギリス音楽界における貢献が認められ、1928年にナイトに叙され、1934年には王立フィルハーモニック協会のゴールド・メダルを受賞するなど、高い栄誉を得ました。また、演奏権利協会の会長として、作曲家の権利擁護にも尽力しました。クリケット観戦を趣味とし、静かな晩年を送りましたが、晩年には視力の一部を失うという試練に見舞われました。

ジャーマンの音楽は、しばしば「古きイングランド」の魅力を持つと評されます。音楽学者のデイヴィッド・ラッセル・ヒュームは、彼の音楽様式がフランス音楽の影響を受けつつも、典型的にイギリス的な特徴を持ち、特にロマンティックな温かさを持つ抒情的なバラードがイギリスのオペレッタに新たな彩りを与えたと指摘しています。同時代の傑出した音楽家であるエドワード・エルガーやジョン・バルビローリらは、ジャーマン作品の質の高さを認めていました。ヒュームは、彼の管弦楽作品が現代においてもっと広く知られるべきだと述べています。日本でも、作曲家・指揮者の山田耕筰がその魅力を早くから見抜き、作品を指揮しています。ジャーマン自身は純音楽作品が十分に評価されなかったことに失望を感じていたようですが、『ウェールズ狂詩曲』などの管弦楽曲や、ライト・オペラ『Merrie England』と『Tom Jones』は、現在も演奏や録音を通じて親しまれ続けています。

彼の生地であるホワイトチャーチでは、2006年からエドワード・ジャーマン音楽祭が開催され、その作品が再評価される機会となっています。

ジャーマンは1936年、前立腺がんにより74歳で亡くなりました。遺灰は故郷のホワイトチャーチ墓地に埋葬されています。

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